試合後、選手から祝福されるハリルホジッチ監督

8月31日、埼玉スタジアムで行なわれた2018年ワールドカップ・アジア最終予選の対オーストラリア戦。ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、勝てば予選突破確定という大一番において2-0で勝利を収め、見事に来年ロシアで開催される本大会への出場権を手にした。日本にとっては、これで6大会連続での出場となる。

とはいえ、その結果とは裏腹に戦前の予想は日本にとって厳しいものだった。

過去の予選でまだオーストラリアに勝ったことがないというデータや、最終予選の初戦で黒星を喫したチームは本大会に出場できないというジンクスもあった(初戦のUAE戦に1-2で敗戦)。またそれ以上に不安視されていたのが、本田圭佑、香川真司、長谷部誠、大迫勇也など故障の影響により主力選手たちのコンディション調整が遅れていた点である。

このような状況下で、指揮官は従来通り、経験豊富なベテラン勢を信じて起用するのか、それとも調子のいいフレッシュな若手を抜てきするのか。この大一番を迎えるにあたって、そこがひとつの焦点となっていた。

果たして、いざ蓋を開けてみると、ハリルホジッチは後者を選択した。相手がグループ最大のライバルであるオーストラリアということもあって、昨年10月11日のアウェーでのオーストラリア戦同様、堅守速攻を選択。これまで日本がアジアのチームと戦う時のような“上から目線”ではなく、ホームでも弱者としてライバルに立ち向かう決断を下し、結果的にそれが勝因のひとつとなった。

試合後のスタッツは、この試合でハリルホジッチが練った戦略を如実に示している。例えば両チームのポゼッション(ボール支配率)の数値では、オーストラリアの61.6%に対して、日本のそれは38.4%。しかしシュート数ではオーストラリアの4本に対して、日本は15本だった。

相手にボールを持たせて、ボールを奪ったら速いカウンターを仕掛けて一気にシュートまで持ち込む。スタッツはハリルホジッチの戦略通りの数値になっており、しかもそれを遂行したのが、指揮官がスタメンに抜てきした経験の浅い若い選手だったことも見逃せないポイントだ。

とりわけ41分に先制ゴールを決めたキャップ数11の浅野拓磨(22歳)と82分に試合を決めるゴールを決めたキャップ数2の井手口陽介(21歳)は結果を残すことにも成功した。

あらためて、この試合のスタメンを見てみると、まずGKに川島永嗣、DFは酒井宏樹、吉田麻也、昌子源、長友佑都の4バック。ここまでは予想通りだったが、中盤から前線はいつもと違う顔ぶれが並び、4-5-1にも見える4-3-3の中盤にはコンディションが心配された長谷部がアンカーポジションに入り、右に山口蛍、左に井手口が配置され、前線は右に浅野、左に乾貴士、1トップに大迫というフレッシュな面々となった。

キープ力とドリブル突破が持ち味の乾を左ワイドに、足の速い浅野を右ワイドに配置し、「パス1本でオーストラリアの3バックの両脇にあるスペースを突く」――指揮官は自らが立てた戦略に従って、守備時のハードワークと奪ってからの早いカウンターを最も効率よく遂行するためのスタメンを編成したわけだ。

ハリルホジッチは経験値よりコンディションを重視

このスタメン変更がいかにドラスティックだったかは、過去のハリルホジッチ采配と比較するとよくわかる。

最終予選の初戦となった昨年9月1日のUAE戦は、GK西川周作、DF酒井(宏)、吉田、森重真人、酒井高徳、MF長谷部、清武弘嗣、大島僚太、FW本田、岡崎、香川の11人。お馴染みの選手が名を連ね、西川、大島以外は2014年ブラジル大会の出場メンバーだったが、今回のオーストラリア戦になると、2014年組以外に昌子、井手口、浅野、乾というキャップ数の少ないフレッシュなメンバーが抜てきされている。

一般的に大一番の戦いには経験値が重要視されるものだが、ハリルホジッチはコンディションをより重視。逆に言えば、経験のある選手たちのそれが指揮官として信用できないレベルだったとも言える。

いずれにしても、ロシアへの切符をつかんだこのオーストラリア戦を境にスタメンの顔触れが混沌としてきたことは間違いない。これまで主軸として君臨し続けていた前回、前々回のワールドカップ出場組にとっては、黄色信号が灯ったことになる。

「今日の試合を見てもわかるように、若い選手が出てきて、そして結果を残した。そういう部分でチーム内競争は活性化しているし、まだ誰ひとりとしてワールドカップの切符をつかんだわけではない。

ハリルホジッチ監督は前回、ワールドカップでアルジェリアを率いて、グループリーグと決勝トーナメントで試合ごとにスタメンを変えて戦っている。だから日本もこれからはメンバー固定というのはないと思うし、いい意味で誰にでもチャンスはある」

試合後、そう語ったのはキャプテンの長谷部だ。長谷部自身も怪我から復帰したばかりで、この試合の出場も危ぶまれていた立場。しかも、試合中に何度もボールを失いピンチを招く場面もあった。このままではロシアに行けない可能性もある。試合後のこのコメントは、自分自身に言い聞かせる意味で話していたようにも見えた。

もちろん、長谷部が言うようにハリルホジッチ采配の傾向からすれば、単純に世代交代という言葉で括れない部分もある。この日の試合には出場しなかった本田や香川、あるいは後半最後にピッチに立った岡崎ら実績十分の選手たちのチャンスがなくなったわけでもない。

ただ、「メンバー固定」という法則が完全に消滅したため、これからはロシア行きのチケットを巡るチーム内競争が激化することは間違いないだろう。

そうなると、注目は次のサウジアラビア戦のスタメンになる。確かに日本にとって消化試合ともいえるが、どんなメンバーを編成するかによって、本番までのチーム作りの青写真も見えてくるはずだ。

世代交代は加速するのか? 最終予選を締めくくる9月5日のサウジアラビア戦はそういう意味でも見逃せない。

(取材・文/中山 淳 撮影/山添敏央)