(左から)中村(広陵)、清宮、安田(履正社)。ドラ1候補の3人はいずれも不満の残る打撃内容

カナダで開催された野球のU-18ワールドカップが終了した。侍ジャパンの4番として大活躍を期待された清宮幸太郎(早稲田実業)だが、13打席連続無安打を記録するなど、大会前半では打線のブレーキとなってしまった。

高校通算本塁打記録を更新した“怪物”の本当の実力、そして今の状態はどうなのか。ヤクルト・山田哲人らを育て上げた名打撃コーチとして知られる伊勢孝夫氏に分析をお願いした。

「今大会では引っかけた二塁方向のゴロや、詰まらされた外野フライが目立ちました。明らかに清宮君の欠点が露呈した結果ですね」

伊勢氏が挙げる課題はシンプルだ。まずは、金属バットから木製バットに変わることへの対応。

「国内の高校生相手に金属バットを使えば“無敵”だった清宮君も、木製バットでは勝手が違う。一般的に、木製は金属に比べてスイートスポットが3分の1くらいしかない。当然、しっかりとらえないと飛びません」

しかも、大会で使用された国際球は国内の使用球よりやや大きめで数g重いとされる。ジャストミートしたとしても、思ったほど飛距離が出ないのだ。

「首脳陣を含めた周囲も、そして本人も一発を望みすぎ、『打ちたい、打ちたい』という力任せのスイングになっていました。ポイントをとらえて弾き返すという“打者の原点”がまだ十分に身についていないと感じる部分です。彼がもし日本のプロに進んだ場合、やはり一発を過剰に期待されるでしょうから、その点は心配ですね。

また、特に1次リーグのアメリカ戦では、相手の動く速球に手も足も出なかった。もし現段階で米球界に挑戦したら、おそらく潰されてしまうでしょう。球が飛ばないなら、いっそ流し打つ感じでヒットを狙い、その延長がホームランになればラッキーという発想の転換も必要。現に今大会では、強振せず左右に打ち分けていた1、2番の選手らのほうが、木のバットや国際球に対応できていました」

大会には、夏の甲子園で本塁打記録を更新した中村奨成(しょうせい・広陵)も出場。右手を痛めた影響もあり、出番は限定的だったとはいえ、やはり清宮と同様の傾向が見られたと伊勢氏は指摘する。

「ホームランを打ちたくて仕方ないといった気負いばかりが見え、スイングが荒れていた。いいものは全部、甲子園に置いてきてしまったような別人ぶりです(苦笑)。これは同じくプロ注目の大砲といわれる安田尚憲(ひさのり)君(履正社)にも当てはまりました。ただ、清宮君にせよ中村君にせよ、マスコミも周囲も騒ぎすぎです。良くも悪くもまだ高校生。過大な期待を背負わせては、育つものも潰れてしまいますよ。今大会は貴重な経験だったと思って教訓にすればいいのでは」

今は欠点と向き合い、冷静になることも必要なのだ。

(写真/時事通信社)