ドイツ代表の伝統的強さについて語った宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第14回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、W杯ブラジル大会の王者、ドイツ代表。現在、W杯最終予選で全勝のまま首位を快走し、国際大会で常に結果を残し続けるサッカー大国について考察する。

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ドイツ代表の強さが際立っている。6月にあったコンフェデ杯に1軍半、いや2軍と言ってもいいような若手中心のメンバーで臨んで優勝。そのメンバーを9月のW杯欧州予選でも招集して、そこに2014年のW杯優勝メンバーのマッツ・フンメルス、トーマス・ミュラー、サミ・ケディラ、メスト・エジル、トニ・クロースといった名だたる猛者が加わった。現在、W杯予選グループで首位に立っている。

次から次へと新しい代表レベルの選手が台頭してくるドイツは、まさに人材の宝庫だ。約20年前はフランスの選手育成アカデミーが最先端だったと思うけれど、今はドイツのシステムが世界のトップを走っているのは間違いない。

もちろん、ムバッペ(パリ・サンジェルマン)のように、現在もフランスから才能ある選手が出てくるが、ドイツの場合、特別個人技が光るわけではないけれど、すべてにおいてベースが高くて、何よりも強い。

これは昔から変わらない。ベッケンバウアー、ゲルト・ミュラー、カール・ハインツ・ルンメニゲ、シュスター、マテウス、クリンスマン、ルディ・フェラー…言い始めるとキリがない。

みんなスター選手だったけれど、現在のメッシやクリスティアーノ・ロナウドとはまた少し毛色が異なる。ドイツサッカーの根底には規律とか献身性とか質実剛健さがある。だから、華やかなスーパースターというよりも、どちらかといえば職人気質。

見方を変えると、ひとりのスーパースターに頼るサッカーではないから大崩れしない。メッシやロナウドは、攻撃に関してはピッチにいる11人のうち3人分、もしかすると4人分の仕事をする。だから、彼らが徹底マークに遭って力を発揮できないとチームは負けてしまうこともある。

これがドイツ代表の場合は、ピッチに立つ11人全員が攻守できっちりとやりきる。与えられた仕事に対しての責任感の高さがある。だからこそ、いつだってドイツは安定感のある戦いができる。しかも、彼らは勝負強さを持っている。だから、ドイツはワールドカップや欧州選手権で簡単に負けない。今回の予選でも目下、8戦全勝だ。

個人的に強烈に印象に残っているドイツの試合がある。それは、伝説になっている82年W杯スペイン大会での西ドイツとフランスの準決勝の一戦だ。

「勝負あった」と思っていたら……

当時のフランスは中盤の真ん中にミシェル・プラティニ、右にアラン・ジレス、左にベルナール・ジャンジニ、ボランチにジャン・ティガナ。一方、当時は西ドイツだったけど、ミュラーにルンメニゲ、ピエール・リトバルスキー、パウル・ブライトナー、クラウス・フィッシャーというメンツが揃っていた。

試合は1-1のまま延長戦に突入して、フランスが延長前半に2ゴールを決めた。私の父はフランス人で、私も当然フランス贔屓(びいき)、「これで決勝進出だ!」と喜んでいた。ところが…。

「勝負あった」と思っていたら、ドラマはまだまだ終わっていなかった。この試合、ケガでスタメンから外れていたルンメニゲが投入されてゴールを決めると、フィッシャーがオーバーヘッドキックでゴールを決めて同点に追いつく。結局、PK戦までもつれこみ、ドイツが5−4で勝利。父も私もものすごく落ち込んだのを昨日のことのように思い出せるよ。

この試合のように、普通なら諦めるような状況に追い込まれても、ドイツ代表は心が決して折れない。そうした強靭な闘争心もあって、W杯では82年、86年は準優勝、90年に優勝、94年、98年がベスト8で、02年に準優勝をしている。

ところが、2004年のEURO(欧州選手権)ではグループリーグ敗退。06年に自国開催のW杯が控えていた中での不本意な成績で、彼らは育成面で大きな改革に着手した。それが現在の強さにつながっているといえる。その後、W杯では06年ドイツ大会は3位、10年南ア大会でも3位、そして14年ブラジル大会では4回目の優勝を果たした。

結果に対して謙虚だから、どんなに良い結果を残していても、もっと良いものを追求していく。泥臭くても勝利にこだわり、勤勉に努力を続ける。確かに派手さはないけれど、それがドイツの伝統だろう。

フィジカルの部分では大きく違うけれど、勤勉で規律正しいというメンタルの部分ではドイツと似ている日本にとって、見習っていくべき姿勢だろうね。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。