高山選手の復活を願い、支援する会「TAKAYAMANIA」が設立された 高山選手の復活を願い、支援する会「TAKAYAMANIA」が設立された

「頸髄(けいずい)完全損傷で首から下の感覚がなく、現状、回復の見込みはない」

9月4日の記者会見で、高山善廣選手のマネジャーが語った言葉には耳を疑った。今年5月に行なわれたDDTプロレスの大会で頸椎(けいつい)を痛め、入院していた“プロレスの帝王”の病状はとても深刻なものだった。

そのため高山選手の復活を願う有志が集まり、支援する会「TAKAYAMANIA」を設立。この会見に有志代表として出席した親友の鈴木みのる選手に現状や今の思いなどを聞いた。

* * *

―高山選手の現状は?

鈴木みのる(以下、鈴木) 会見の時から変わってないです。ナースステーションの真ん前の部屋で、いつものぞかれている状態。何か異変があっても自分では動けないので。基本的には肩から下がまったく動かない。呼吸器をつけているし、呼吸の合間に話すしかないので大変です。

―どんな話をされました?

鈴木 「今年のG1は誰が優勝した?」って。あいつ、プロレスが大好きなんですよ。

―鈴木選手は、高山選手と親友というか…。

鈴木 僕がパンクラスからプロレスの世界に戻ってきた時(2003年)、高山は“プロレス界の帝王”と呼ばれてました。お互いフリー参加してたんですけど、フリーって控室が一緒になることが多くて、そこで人の悪口を言って意気投合したのが最初の出会い。年代も近いから見ていたプロレスも同じでね。「テリー・ファンク対アブドーラ・ザ・ブッチャーの試合を見て、プロレスを好きになった」って言ったら「俺もだ」って。

あいつが誘ってくれた試合があったんですよ。「アントニオ猪木の命を受けて『真・猪木軍』をつくる。一緒にやらないか」って(03年・東京ドーム)。その試合でチームが勝利すると「一緒にタッグを組もう」ということになった。それからは一緒にメシ食って、一緒に遊んで、一緒にプロレスやって…。

俺が“はな垂れ小僧”で、あいつが“肝っ玉母ちゃん”みたいなタッグチームでしたね。殴られて帰ってきたら「何やられてんだ。殴り返してこい」って。それでタッチしたら「あとは俺に任せろ」って出ていった。

―高山選手から教わったこととかありますか?

鈴木 俺がプロレスに戻ってきた時、受け身をきれいに取れなかった。それは若手時代にきちんと教わらないで格闘技に行ってしまったから。それで受け身の練習をしてたら「なんで受け身取ってんの? そんなことしたらつまらないじゃん。鈴木みのるが通ってきた道は受け身なんて取らない。それでいいじゃん」って。攻撃も「どいつもこいつもぶっ飛ばす。グーで殴るだけでいい。それが最大の表現だよ」って教えてくれましたね。高山は俺にとって親友であり、原点が同じ同志でもある。

まあ、一昨年7月にノアのGHCヘビー級選手権で戦って、あいつを椅子でめった打ちにして大流血させてからは口を利いてなかったんですけど。で、話せたのが、この9月だった。

批判も多いですよ。俺がやってるので

―5月にケガをした直後は?

鈴木 DDTから「高山さんが試合中に動かなくなった」って電話はもらいました。けど、俺が心配したところで何もできない。でも、いつか俺が動かなければいけない時がくるはずだから、その時の準備はしておこうと思ってました。

―そのタイミングが今回?

鈴木 そうですね。ケガをしてから何ヵ月も面会できる状態じゃなかったんです。で、9月にお医者さんから「このままだと…」と宣告されました。さすがに、その日は1日中泣きましたよ。すごくショックで。で、自分の気持ちを聞いてほしくて友人に電話したんです。そうしたら「やるべきことはわかってるんだろ」って言われて、だったらそれをやるしかないって。

―それがTAKAYAMANIA設立につながった。

鈴木 正直、俺ひとりの稼ぎを全部注ぎ込んでも、どうにもならない額なんです。普通の病院じゃダメで、高度医療ですから。だから、みんなにちょっと力を貸してもらえねーかなって。

この際だから言いますけど、これまで街で募金活動とかをやってても、何もしなかったのが俺です。そうやって人が善意でやってる活動を横目で見てた人間が、今さら「お願いします」っていうのはおかしいでしょう。悪口を言われても仕方ありません。でも、高山のためならなんとも思わないです。だって、今回は自分の親友ですもん。朝まで酒を飲みに行ったこともあった。命をかけて全力で戦ったこともあった。そんな親友が動けない状態になった時に、俺にできることはこれしかないと思ってやっています。

そりゃ、批判も多いですよ。俺がやってるので(笑)。「突然、口座を公開して『金を振り込んでくれ』って、そんな都合のいい話はねーだろ」とか「レスラーの中でも、俺はケガしたけど1円ももらってない」って言うやつもいると思います。でも、ほかに方法が思いつかないんです。

『週刊プレイボーイ』の読者なら、プロレスが好きだった人もたくさんいると思います。十数年前、プロレスが低迷していた時に、“帝王”として君臨した男がいた。プロレスが救われたのは、そいつのおかげといえば、おかげなんです。だから、ポケットに余っている10円でいいから協力してほしい。

彼は「ありがとう」ってみんなには言えないけど、俺は頭を下げます。そして、あいつに「安心して寝っ転がってろ」って言ってあげたいんです。どうか、よろしくお願いします。

◆『週刊プレイボーイ』41号「負けるな!! “プロレス界の帝王”高山善廣」では、いつも名勝負だった高山選手の「伝説のベストバウト10」を紹介。そちらもご覧いただきたい!

高山善廣選手への支援はこちらへ 三菱東京UFJ銀行/代々木上原支店(店番号137) 口座番号:普通預金0240842 口座名義:TAKAYAMANIA タカヤマニア

鈴木みのる 1968年6月17日生まれ。神奈川県出身。88年に新日本でデビュー。89年にUWF、91年に藤原組と移籍し93年、パンクラスを旗揚げ。2003年、プロレスに復帰

(取材・文/村上隆保 撮影/原悦生 佐賀章広[鈴木みのる])