最多優勝回数39回。最多勝利数1050勝。すでに前人未到の領域に達し、たったひとりでその道を突き進む大横綱・白鵬。
旧知のスポーツカメラマン・ヤナガワゴーッ!氏に語った、“歴代最強横綱”の境地とは―。
■お台場巡業で「4横綱」がそろい踏み
約1ヵ月に及ぶ夏巡業の終盤、東京・お台場で2日間にわたり、「Yomeishu presents大相撲ODAIBA場所2017」(8月23、24日)が開かれた。4500人を収容する特設テントでの屋外巡業は、白鵬、日馬(はるま)富士、鶴竜、稀勢の里の「4横綱」が巡業で初めてそろい踏みするとあって大いに盛り上がった。
真夏の炎天下、協会関係者用のテントでは、稽古を終えた関取衆がちゃんこ鍋を囲んでいる。よく見ると、その輪の中には横綱の白鵬と日馬富士の姿も。報道陣もぐいぐいカメラをねじ込んで自由に取材している。ここ10年くらい見ることのなかった、なんとも懐かしい雰囲気だ。さすが相撲レポーター歴30年、元祖“スー女”の横野麗子女史が仕切る“フジテレビ場所”だ(笑)。
土俵入り以外、テントから出てこない鶴竜と稀勢の里は、ファンサービスもままならず。一方、満身創痍(そうい)で土俵に上がる日馬富士は、花道でもサインに応じるなど立派のひと言。だが、やはり大相撲ファンの視線を一身に浴びるのは、なんといっても白鵬だ。
7月の名古屋場所で、自身の持つ最多優勝記録を更新するV39を達成。魁皇の1047勝、千代の富士の1045勝という通算勝利数の歴代1位、2位の記録も次々と抜き去り、通算勝ち星を1050勝にまで伸ばした。
「左膝の痛み」を訴えて今夏の巡業を一時離脱していたが、お台場巡業で復帰。白鵬に対する声援はひと際大きかった。フジテレビの番組のお天気コーナーに飛び入り参加するなど取材対応はお手のものだし、ファンサービスも抜群。おまけに、ろくに休憩する間もなく行なわれた記念撮影でも、どの横綱よりも早くスタンバイしていた。“歴代最強横綱”は、やはり格が違う。大相撲を背負っているという自負がそうさせるのだろうか。
将来、自分と同じ寂しさを味わわせたくない
■凡人には理解できぬ偉大なる白鵬イズム
フジテレビの看板アナウンサーたちによる怒濤(どとう)の“白鵬詣で”が一段落した頃。支度部屋で携帯をいじっている白鵬の姿を見つけた。挨拶をしようと近づいていったら、ふと目を上げた横綱と視線が合った。2006年に初めて取材で出会って以来、事あるごとに白鵬イズムに満ちた興味深い話を聞かせてもらってきた。今回はどんなことを語ってくれるのか。何はともあれ、普段から感じていたことをぶつけてみた。
―こんなにすごい記録を打ち立てたのに、まだ記録、記録と周りから言われてしんどくないですか?
「……」
少しの沈黙の後、白鵬はぽつりぽつりと語りだした。
「2年前にわたしが一番尊敬する大鵬さんの大記録(当時歴代最多32度の優勝)を抜いた時、本当になんにも目標がなくなってしまいました。とても寂しい気持ちになりました。そんな時、自分を目指して集まってくる若い力士たちを見て、ふと思ったんです。『ああ、横綱になりたくて頑張ってるこのコたちに、将来自分と同じ寂しさを味わわせたくないなぁ』って」
??? 最初は一体、何を言っているのかわからなかった。ほんの世間話のつもりで、なんの気なしにぶつけてみた素朴な疑問。それがどうして…。いやはや凡人には到底、理解できない、偉大なる横綱の胸の内を垣間見てしまった。驚きの白鵬イズムがそこにはあったのだ。
「今は勝ち星も優勝回数も一番になりましたが、それでも寂しさを我慢して白星を積み上げていくうちに、『まだまだ、もっともっと勝って勝って勝ち続けて、誰にも破られない記録を残そう! そうしたら、誰もわたしみたいな寂しさを感じなくて済むんだ!』と思うようになりました。そうしたらもう、寂しくしてる場合じゃなくなったのです」
◆後編⇒“歴代最強横綱”白鵬がたどり着いた境地――「ただただ、勝ち続けるしかない」
(撮影・取材/ヤナガワゴーッ!)