カナダ・サンダーベイで開催されたU-18ベースボールワールドカップ(9月1日~11日)で、高校日本代表は3位という残念な結果に終わった。
清宮幸太郎(早稲田実業)や、今夏の甲子園で1大会最多本塁打記録を塗り替えた中村奨成(広陵)ら、期待の野手陣が木製バットへの適応に苦しむ中で、輝きを放ったのは熊本・秀岳館の左腕、田浦文丸(ふみまる)だった。
主にリリーフとして登板した田浦は、予選リーグではアメリカ、キューバ、オランダという強豪との3試合に登板し、全9イニングを投げて奪った三振は19個(無失点)。北米の高くて硬いマウンドも気にするそぶりはなく、伝家の宝刀であるチェンジアップに海外選手のバットがクルクルと回った。
秀岳館では、同じく代表に選ばれた川端健斗と“Wエース”を形成していたが、この夏は同校でもリリーフの役割に徹してきた。田浦は「その経験が生きた」とふり返る。
「甲子園にも4季連続で出場していますし、変化球に食らいついてくる日本人よりは、大きく振ってくる海外選手のほうが三振は取れると思っていましたが…。さすがにここまでとは(笑)」
予選の上位チームが激突するスーパーラウンドに入っても、田浦の快投は続いた。オーストラリア戦ではタイブレーク突入後の11回表にマウンドに登り、設定された無死一、二塁の状況を無失点で乗り切って、その裏のサヨナラにつなげた。さらに、翌日のカナダ戦でも、パーフェクトリリーフを披露している。
田浦のチェンジアップは、左手の人さし指と親指で「OK」のサインをつくって投じられる「サークルチェンジ」、もしくは「オーケーボール」だ。シュートしながら落ちていく軌道を描くため、とりわけ右打者がこの逃げていくボールを追いかけるように空振りしていた。
本人が「リリースの感覚は、左腕がボールを追い抜いていく感じ」と明かすように、球速に比べて腕の振りが速いため、打者はボールが遅れて出てくるような錯覚に陥る。このボールを警戒させることで、最速148キロのストレートもより速く感じさせることができるのだ。
田浦先発という苦肉の策も失敗に終わった
9月9日のスーパーラウンド最終戦の韓国戦は、勝てば決勝進出の可能性が残る重要な試合だった。この日の先発に、高校日本代表の小枝守監督は田浦を指名した。
驚きの采配だった。田浦はここまでの8日間で5試合に登板し、12回3分の1を投げていたのだ。韓国戦で先発予定だった川端が、前日のカナダ戦で打球を足に当てるというアクシデントがあったとはいえ、明らかに酷使だろう。
大会を通じて、首脳陣の投手起用には疑問符がついた。徳山壮磨(大阪桐蔭)をエースに指名しながらローテーションを固定せず、場当たり的な先発起用が目立った。
韓国戦における田浦先発という苦肉の策も、失敗に終わった。初回に3失点を喫し、2回途中で降板。しかし、獅子奮迅の活躍を見せてきた田浦を責める人間は誰もいないだろう。カナダを訪れていた各球団のスカウトの評価も、大会前から一変したはずだ。
そして、田浦は9月19日にプロ志望届を提出した。
(取材・文/柳川悠二 写真/大友良行)