球史に残るクリーンアップの3連発といえば、タイガースの“バース、掛布、岡田”が甲子園のバックスクリーンへ立て続けにぶち込んだ1985年の伝説があまりにも有名だ。ところが今年、ベイスターズが誇る“筒香(つつごう)、ロペス、宮﨑”のクリーンアップがその伝説を超える、史上初のサヨナラ弾を含む3連発を放ち、歴史を塗り替えた。
8月22日、首位のカープと対戦したベイスターズは3点ビハインドの9回裏、3番の筒香嘉智(よしとも)が打った2ランで1点差に迫り、4番、ホセ・ロペスがレフトスタンドへ同点弾を運んだ。そして、5番の宮﨑敏郎―。
今村猛(たける)の投じた初球、低めのフォークに宮﨑のバットが止まる。そのとき、宮﨑はある軌道をイメージしていた。
「このフォークが高めに浮いてきたら…」
高めを打てばヒットになる確率が高くなる。ホームランが続いたというより、アウトにならずに攻撃がつながってきたという意識が、宮﨑から力みを消し去った。
「単純に浮いてきたボールを打とうということだけしか考えてなかったですね。打った瞬間はホームランの感触ではなかったので、スタンドまで届くとは思いませんでした。今、バッティングに関しては体が反応してくれるという状態にあるんです」
3連発でのサヨナラ勝ちは球史を紐解いても初めての快挙。そんな新たな伝説のドラマを締めくくったのが、宮﨑だった。今シーズン、打率でリーグトップを走り続けた宮﨑は、プロ4年目の昨シーズン、打率.291、11本のホームランを放って頭角を現し、5年目、ついにその才能を開花させた。
ゆったりとタイミングを取って、力強いスイングから右へ左へ広角に鋭い打球を飛ばす。追い込まれてからの打率が高く、三振が少ないのは類稀(たぐいまれ)なバットコントロールの持ち主だからだと、彼の才能を讃える声はあちこちから聞こえてくる。では宮﨑自身、己の武器は何だと考えているのだろう。
「武器ですか…うーん、なんだろう。自分のスイングができているということですかね。それは、コースなりに対応しようというスイングです。アウトコースを強引にレフト前へ引っ張ろうとか、そういう意識はありません。右打ちですか? それも僕の場合は振り遅れたり、コースによって右へ飛んでいるだけで、スイングは同じです。だから僕の場合、“あっち向いてホイ”なんですよ(笑)」
試合前、宮﨑のバッティング練習を見ていると、あることに気づく。インコースのボールを立て続けに、レフト方向へ高々と打ち続けているのだ。一見、気持ちよく打っているだけに見えるこの練習に、実は今の宮﨑の技術の粋が詰め込まれていた。
「もともと右方向への打球は角度がつくというか、いい感じで上がるんですけど、左方向への打球はラインドライブがかかって、あまり打球が上がらなかったんです。ミスショットも多くて、もっと角度がつくようになればレフトへもホームランを打つ確率を上げられるんじゃないかと思っていたんです。それで今シーズン、インサイドのボールに対して極力、ステップ幅を狭くしてその中で回転するように意識してみたら、打球に角度がつくようになったんです」
最初はこんな感じかなぁと半信半疑でやってたんです
今年の春季キャンプ、2軍スタートだった宮﨑。そこで彼は高須洋介2軍打撃コーチにこんな相談を持ちかけた。
「外側の球をライトへ打ったときのほうが打球が上がるんですけど、インサイドの球はどうやって打ったら角度がついて、打球が上がるようになるんでしょう」
すると、高須コーチは宮﨑にこう答えたのだという。
「もう少しボールを体の近くまで呼び込んでみたら?」
宮﨑は、さっそくその意識を持ってインコースのボールと対峙(たいじ)した。すると、あるフォームの変化に気がついたのである。ボールを呼び込もうとすると、ステップ幅が短くなっていたのだ。
「インサイドに関しては、呼び込むというより、吸い込む感じがあったんです。ボールをインサイドのほうへ吸い込む感じ…そうするとステップ幅が短くなって、その分、右の軸足に体重が乗ったままの体勢になった。そこで一気に体を回転させて打つというイメージを持ったら、レフト方向への打球も上がるようになったんです。そもそも僕は軸足にメチャメチャ溜めてインサイドを打つタイプではなかったので、最初はこんな感じかなぁと半信半疑でやってたんです。でも、シーズンの途中からレフトにホームランが出始めたので、今はその感じを極めようと思ってやっています」
●宮崎敏郎(みやざき・としろう) 1988年12月12日生まれ、佐賀県出身。厳木高校から日本文理大学、セガサミーを経て2012年ドラフト6位でDeNAに入団。プロ4年目の昨年後半よりレギュラーに定着し、5年目の今季はチーム不動の5番打者として、セ・リーグのリーディングヒッターを狙う
(取材・文/石田雄太 撮影/小池義弘)