サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第18回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、日本代表監督として、ジェフ市原(現在の千葉)監督として、日本サッカーに多大な貢献をしてくれたイビツァ・オシム元日本代表監督。今だからこそ思い出したい提言があった。
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日本代表は今月、ニュージーランドとハイチと親善試合をしたけれど、ニュージーランドには2対1で勝利、ハイチには3対3の引分け。相手のレベルを考えると結果にも試合内容にも不満は残ったけれど、それより何より、このレベルの対戦相手しか手配できなかったことにガッカリしたね。
アジア最終予選は9月でひと足早く終わったけれど、他の大陸のW杯予選はまだ続いていたし、日本という国がサッカー強豪国の南米やヨーロッパからは東の果てに位置していることも理解している。
だけど、同じスケジュールの中で隣国の韓国はモスクワで開催国のロシア代表と、スイスでモロッコ代表と国際親善試合をしていたことを考えると、どうしても日本サッカー協会のマッチメイクには物足りない印象を覚えてしまうよね。
1年にわたってW杯最終予選の緊張感の高い試合をしてきて、苦しんだけれど出場権を獲得した。「さあ、ここからはW杯に向けた強化だ」と、選手もサポーターも気持ちが高まっている最初の親善試合が、本番で対戦することのないレベルが相手となったら、拍子抜けするのは当たり前。せっかく高まっていたサッカー熱に水を指すことになってしまう。
日本代表のマッチメイクが見劣りするのは、ヨーロッパの強豪国の立場になって考えれば明確だ。彼らからすれば、移動に8時間以上もかけて極東の日本に行って1試合だけやっても、強化にはつながらないので旨味がない。だったら、日本代表は国内で親善試合をするのは諦めて、どんどん海外に出ていけばいいんだよ。そうすれば強化というテーマに相応(ふさわ)しい相手はいくらでもいる。
こういう時に思い出すのが、元日本代表監督のイビチャ・オシムさんの提言。彼は「日本代表やクラブチームはもっと海外に行け。ロシアに行って試合をしろ」と、よく言っていた。
日本代表がW杯でグループリーグを本気で突破しようと思うなら、体の大きな相手との試合経験を増やしていかないといけない。Jリーグにも外国人選手はいるけれど、それで積める経験はたかが知れている。だったら、国外に出て試合をすればいい。「それならロシアが狙い目だ」とオシムさんは言っていた。
Jリーグ誕生前はクラブチームと対戦していた
モスクワまでは飛行機で10時間。選手たちは飛行機の中で寝て、試合をすればいい。1試合くらいなら大丈夫。Jリーグが誕生して25年が経って、選手たちを取り巻く環境は充実しているけれど、少しくらい厳しい状況を体験することだって必要。今は過保護になりすぎている面もあると思うね。
モスクワが遠いというのなら、ハバロフスクに行けばいい。日本から飛行機で約3時間と近いし、ロシア・プレミアリーグのクラブもある。無理して欧州組を呼ぶ必要はなくて、Jリーグ組で乗り込んで試合をすれば、体格差に負けない戦い方も身についていくはずだ。
本田圭佑だってミランに移籍する前はCSKAモスクワでプレーして、190cmを超える選手がゴロゴロいる環境で経験を積んだからこそ、あれだけフィジカルが強くなったし、当たり負けしなくなった。日本人はヨーロッパというと、どうしてもドイツやイングランド、スペインなどに目が向いてしまうけれど、そこに行く前に見落としているヨーロッパもあることに気づいてほしいね。
今でこそ国際親善試合で各国代表と対戦するのが当たり前になっているけれど、Jリーグ誕生前の日本代表はイタリアのユベントスやイングランドのトットナム、ブラジルのバスコ・ダ・ガマなどのクラブチームと対戦していた。今の日本代表もロシアのクラブと試合をして、そこから欧州クラブのスカウトのお眼鏡にかなって、ヨーロッパの強豪国へ移籍する道筋も生まれるかもしれない。
極東という立地条件は変えられないのだから、その中でいかにして強くなるかを考えることが大事だ。なんでもかんでもヨーロッパ基準でやる必要はない。本気で日本代表を強くするために、もっと柔軟な発想の下で試行錯誤する努力を忘れずにしたいね。
(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。