森保監督が気持ちよく仕事できる環境を整えてほしいと語るセルジオ越後氏

経験、実績は申し分ない。2020年東京五輪の代表監督に、今年7月まで広島で采配を振っていた森保一(もりやす・はじめ)氏が就任することが決まった。

森保監督は12年に広島の監督に就任すると、15年まで4年間で3度のJリーグ優勝。また、それ以前にはU-20日本代表のコーチを務めるなど、若い世代の指導経験もある。そんな人材がたまたまフリーだったのは、日本サッカー協会にとってラッキーだったね。

とはいえ、森保監督もマジシャンではない。毎日練習を見られるクラブチームと、試合ごとに選手を集める代表チームでは勝手が違う。自国開催の重圧も大きい。そのあたりを協会がどうバックアップするか。

歴代の五輪代表は各チーム、各リーグとの選手招集に関しての交渉や、強化試合のスケジュール、マッチメイクなどでいつも問題を抱えていた。

また、五輪代表に使われる予算はA代表に比べるとはるかに少ない。僕は複数の歴代監督から話を聞いたけど、いずれもお金、人、モノなど、あらゆる面でのサポート不足を嘆いていた。なかには「協会は新しい話に耳を傾ける組織じゃない」という批判の声もあったほど。

協会は五輪のたびに「1968年メキシコ五輪以来のメダル獲得を」と目標を掲げるけど、結局、メダルには届いていない。次も自国開催の利があるとはいえ、今までと同じやり方では難しい。その前提に立って強化方法を考えるべき。

それこそ予選を戦わなくて済むのだから、世界の強豪国との強化試合を何試合も組んで、どんどん外に出ていってほしい。そこは協会の田嶋幸三会長、西野朗(あきら)技術委員長の腕の見せどころだ。

ダメだったら代えればいいだけ

メンバーについては、今年5月のU-20W杯(韓国)でベスト16入りした選手がベースになる。残念ながら、すでにA代表で活躍しているようなスーパースターはいない。でも、MF堂安律(どうあん・りつ、フローニンゲン)、DF中山雄太(柏)など、所属クラブで継続して結果を出している選手がいて、FW伊藤達哉(ハンブルク)、DF藤谷壮(神戸)など新戦力になりそうな選手も出てきた。可能性は十分にある世代だ。それだけに、まずは森保監督が気持ちよく仕事できる環境を整えてほしい。

ちなみに、僕は来年のロシアW杯後、森保監督にA代表監督を兼任させても面白いと思っている。これまでA代表の監督は、国際舞台での実績やW杯での指揮経験などを優先して、外国人監督を招聘(しょうへい)することが多かった。でも、世界のマーケット事情を考えると、海外から優秀な監督を招くことは年々難しくなっている。

だったら、国内で実績を残している日本人監督に任せる手もありなんじゃないかな。「A代表監督に日本人を」という話はこれまでにも何度か出ているけど、今なら森保監督の名前は有力候補に挙げられるはず。それだけの実績を残しているからね。

A代表と五輪代表の監督を兼任すれば、かつて2000年シドニー五輪、02年日韓W杯の時のトルシエ監督のように両チームを連携して強化できる。世代交代もスムーズに進められる。

もちろん、最初から森保監督と一蓮托生(いちれんたくしょう)を決め込む必要はない。やらせてみてダメだったら代えればいいだけの話。いずれにしても、同じことを繰り返して結果が出ていない以上、思い切った発想が必要だと思う。

(構成/渡辺達也)