メッシの活躍でロシアW杯出場を決めたアルゼンチン代表。本戦を勝ち抜けるかどうかは、サッカー協会がどれだけ混乱を収められるかにかかっている

ロシアW杯南米予選の最終節でエクアドルに勝利し、出場権を手にしたアルゼンチン。しかし、その大一番を前にした段階での順位は、南米10ヵ国中6位。自動的に出場権を得られる4位以上どころか、プレーオフ行きの5位にも及んでいなかった。

あのリオネル・メッシを擁し、“世界屈指のタレント軍団”と評される強豪に何が起こっているのか。多くのファンが疑問を持つところだが、実はその大不振にはそれなりの理由がある。それが、スキャンダルまみれでカオス状態が続くアルゼンチンサッカー協会(AFA)の存在だ。

その混乱は、2014年7月に、約35年の長期政権を担っていたフリオ・グロンドーナ元会長が死去したことから始まる。絶大な権力者がいなくなり、AFA内部に醜い権力争いとそれをめぐる不正が頻発。前任者が指名した後継者であるルイス・セグーラ元会長を中心とする幹部たちは、テレビ放映権料やスポンサー料など、協会に入る大半の収入を自分たちの懐に分け合った。結果、あっという間に協会の資金がショートすることになる(後にこの一連の悪事がアルゼンチン当局の捜査対象となり、セグーラ元会長ら幹部全員が起訴された)。

そして、15年12月に行なわれたAFA次期会長選挙で、信じられない不正が発覚する。当時のセグーラ会長とマルセロ・ティネリ氏の一騎打ちとなった選挙は、投票者が75人にもかかわらず、結果はなぜか38票対38票。“謎の1票”のおかげで、再選挙までの間は国際サッカー連盟(FIFA)による正常化委員会によってAFAが運営されることになった。

そんななかで行なわれたのが、昨夏のコパ・アメリカ(南米選手権)100周年記念大会だった。この大会の決勝で涙をのんだメッシが、突然の代表引退を宣言。タタ・マルティーノ代表監督も辞任したが、その背景には腐敗したAFAに対する不満があったともいわれている。AFAの説得でメッシの引退はなんとか撤回にこぎ着けたが、一方で新監督は正常化委員会が指名したエドガルド・バウサ氏に決定。しかし、W杯予選での不振は続き、チームの悪い流れは変わらなかった。

ようやくAFA新会長が決まったのは今年の3月29日。グロンドーナ氏の死後、初めて選挙で選ばれた新会長にはクラウディオ・タピア氏が就任したが、選挙前に幹部らによる話し合いが行なわれ、それぞれが重要ポストに座るという“権力の分配”が行なわれたことが、“公正な選挙結果”を生んだとされている。

さらに、正常化委員会が選んだバウサ監督の契約を無効とした新幹部は、新たにホルヘ・サンパオリ氏を招聘(しょうへい)。名将サンパオリ新監督もすぐにチームを立て直せずにW杯予選で3試合連続ドローを演じたが、最終節でのメッシのハットトリックに救われ、なんとか本大会行きの切符を手にしたというわけである。

そんな背景もあり、ロシア行きを決めたアルゼンチンの先行きはまだ不透明。今年の春にはリーグからの分配金遅延問題により、選手が国内リーグのストライキを決行するなど、資金不足問題も解決できていない。AFA新体制が襟を正せるかどうかが、今後の行方を左右しそうだ。

(取材・文/中山 淳 写真/ゲッティ イメージズ)