不可解判定で敗れた王座決定戦の雪辱を果たし新王者となった村田。WBA“スーパー王者”のゴロフキンなど、真の強豪たちとの試合もぐっと近づけた

10月22日に東京の両国国技館で行なわれたアッサン・エンダム(フランス)と村田諒太のWBA世界ミドル級タイトルマッチは、全米でも生中継された。アメリカ東部の時間で朝7時からという放送時間もあって、大きな話題になったわけではないが、ロンドン五輪金メダリストのスター性が認められている証(あかし)だろう。

そして、村田が7回TKOで勝利した後、多くのメジャー媒体は新王者に対して好意的な評価を下した。

「リマッチではジャッジの手に委ねることなく村田が決着をつけた」(EPSN.comダン・レイフィール記者)

「村田は5月のやり残しを仕上げた。エンダムはプロ初のKO負け。今回の結果は村田、帝拳ジム、そしてプロモーターのボブ・アラムをほほえませた」(リング誌ライアン・サンガリア記者)

このように、村田が5月の第1戦に続いて、事実上はエンダムに2連勝していることを示唆した。さらに、ボクシング専門のウェブサイト『ボクシングシーン・ドットコム』のマイケル・ローゼンタール記者は、「今週中に世界で行なわれた全興行の中で最大のウイナー」に村田を選出。この週はイギリスでWBA、IBF世界バンタム級王座統一戦、アメリカでもWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチなどが開催されたが、村田の勝利が最も価値があったとみているのだ。

現在のミドル級は極めて層が厚い。村田本人が「僕より強い王者がいることもみんな知っている」と語ったとおり、階級の頂点にはWBAスーパー王者で、WBC、IBFの王者でもあるゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、元WBC王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)などが君臨。WBAのレギュラー王者になった村田だが、ゴロフキンやアルバレス、元WBA王者ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)らより序列的にはまだまだ下なのだ。

だからといって、「村田が奪った世界タイトルには価値はない」などと言うなかれ。世界王座認定団体が増えた現代では、世界王座が名刺代わりなのはよくあること。「WBA正規王者」という立派な名刺を手にしたことで、“リョウタ・ムラタ”の名前は世界の強豪の視界にも入ってくるはずだ。

「村田はよく訓練されていて、頑強で、誰にとっても厄介な相手。ただ、特別な武器を持っているわけではない。ミドル級のコンテンダー(挑戦者)たちとは競い合えるが、次のレベルにいる選手たち(ゴロフキン、アルバレス、ジェイコブスら)が相手では苦しいだろう」

前出のローゼンタール記者はそう記し、ビッグスターたちと対戦した場合、村田が勝利するのは難しいとみている。しかしその一方で、「彼は、私の意見が間違っていることを証明する機会を得るはずだ」とも述べ、村田が近い未来に大舞台に立つことを予想している。

その言葉どおり、世界タイトル獲得で商品価値を上げた日本のヒーローが、真のビッグファイトを行なう日はそう遠くないのだろう。大舞台へのチケットを手に入れたという意味で、エンダム戦での村田の勝利には計り知れない価値があったのだ。

(取材・文/杉浦大介 写真/山口裕朗/アフロ)