巨人の迷走はしばらく続きそう!? ※写真はイメージです

注目のプロ野球ドラフト会議。今年の目玉、清宮幸太郎(早実)を引き当てたのは近年、ドラフトの主役となりつつある日本ハムだった。

直前で清宮指名から降りた球団、外した球団それぞれの内幕はいかに。そして上位指名選手たちの実力のほどは? あっと驚く隠し球も飛び出したが…。

そして、勝ち組、負け組はどこなのか? ドラフト直後の各報道も一段落したところで、前編記事に続き、直前予想の反省会も兼ねた冷静かつ本音のドラフト総括座談会、決定版をお届けする。

A:アマチュア野球専門誌編集者B:若手現役スカウトC:元在京球団スカウトD:アマチュア野球記者

* * *

 ソフトバンクが“外れ外れ外れ”1位に吉住晴斗(鶴岡東)を指名した時には会場が沸きましたね。

 本人も1位指名というのは考えていなかったと思うよ。ただ「隠し球」と言う人もいたけど、あれは今のチーム状況というか、ある意味、余裕のなせる技だよ。清宮から安田、馬場とクジ3連敗は想定外だっただろうけど、慌てずに独自の路線をいったということ。

高校生投手を指名にいくなら、まだ評判の高かった石川や地元出身の山口もいたから、そういう意見も出たと思う。でも、彼らにそこまで抜群の力があれば、あの時点でもう消えてる。だから高校生では上位にランクされていた投手の中で、現場が吉住が一番いいと判断したということ。4、5年後にエースになっていなくても、先発ローテーションの4番目、5番目あたりに入ってきたら、この指名は成功。今のソフトバンクはそれくらい戦力が充実してるからな。

 見方を変えれば、それだけ投手が不作の年だったということでしょうね。ここ数年、投高打低の傾向がありましたが、今年は本当に投手がいなかった。数字的にも昨年は全体の指名選手の中で投手の割合が70%だったのに、今年は54%と大きく減少しています。特に高校生にその傾向が顕著でした。

質の面でも何年か先、エース級になるだろうという雰囲気があるのは田嶋くらいでしょう。そうなると、先発ローテーションどころか、勝ち試合のリリーフにでも食い込んでくれたらスカウトは胸を張れますよ。

 ソフトバンクは1位指名候補にも挙がっていた増田珠(横浜)を3位で指名しているのも見逃せません。これも4、5年後、今の主力選手たちの力が衰えてきた時期にポジションを獲れていたらいいんですから。

 ソフトバンクは育成の指名選手もチェックしておく必要がありますね。この中に第2の千賀や甲斐がいるかもしれませんから。大型内野手・砂川リチャード(沖縄尚学)や早大のエース左腕・大竹耕太郎など、正規の枠での指名は難しいけど化けたら面白いなというタイプの選手ばかり。本当に幅広く選手を見ている気がします。

 しかし早稲田のエースが“育成”って…。

 早大は昨年まで史上最長の9年連続で指名選手を出していましたが、育成を別枠と考えると今年で記録がストップした。秋のリーグ戦では70年ぶりの最下位。かつて斎藤(日ハム)、大石(埼玉西武)、福井(広島)と3人の1位指名を輩出していた当時を思うと凋落の印象がありますね。

 話を戻すと、あらためて興味深いのは中日。今年、ドラフト戦略が一変した印象があります。中村を外したものの、外れ1位では単独指名で鈴木を獲得。数少ない即戦力を計算できる投手が獲れたことで、2位以下は全員高校生でした。それも2位で高校No.1と評価を受けていた石川翔(青藍泰斗)、4位で甲子園で優勝した清水達也(花咲徳栄)と、知名度のある投手を獲っている。落合GM時代に即効性のある社会人の即戦力選手に指名が偏り、結果的にチームの総合力を低下させてしまったことへの反省かもしれませんね。

2位くらいで獲れていたら「良い指名だね」って言えた

 ところで、広島の単独指名が予想された中村が中日と競合し、外れ1位で村上宗隆(九州学院)にヤクルト、巨人、楽天と3球団が重複。高校生捕手の1位指名がふたりというのは、33年ぶり(84年、中日・中村武志、西武・大久保博元)のことだそうです。ここから垣間見えるのは、各球団とも一番頭を悩ませているのがレギュラー捕手をなかなか固定できないという状況でしょう。

C 今年、規定打席に到達したのは小林(巨人)だけだよな。谷繁、城島、阿部(巨人)といった名キャッチャーたちが長いこと頑張りすぎた弊害かもしれないな。ただ、獲るだけ獲っても使わなければ育たないのがキャッチャーというポジション。いや、使ってもなかなか育たないのが現実だろうな。誰のこととは言わないけど(苦笑)。

  いやいや、だから規定打席には達してますし(笑)。でも2位で岸田行倫(大阪ガス)、3位で大城卓三(NTT西日本)と、同じ地域の社会人チームからキャッチャーを指名というのは珍しいケースですよね。育成でもふたりの大学生キャッチャーを指名、小林はどんな気持ちでしょうね(苦笑)。

今年から一軍で起用され始めた宇佐美を含めて横一線で勝負させるということでしょうけど、3年後にやっぱり小林がレギュラーでマスクを被っていたとしたら、今年のドラフトは随分、贅沢な指名だったということになりますよ。

 巨人は4位で北村拓己(亜大)、5位で広島・田中の弟、田中俊太(日立製作所)、6位で若林晃弘(JX―ENEOS)と、キャッチャーだけでなく内野手も大学社会人の日本代表クラスをごっそり指名しました。先ほども話が出た落合GM時代の中日を彷彿(ほうふつ)させますが(苦笑)。昨年のドラフト1位、吉川や“未完の大器”と言われる岡本を我慢して育てていったほうがチームにとって大きな見返りがあると思うんですけど。

 楽天も1位の近藤弘樹(岡山商大)から4位まで続けて大学生を指名していますが、2位の六大学のホームラン王・岩見雅紀(慶大)、3位の東都リーグ100安打の山崎剛(国学大)とポジションは被っていません。いずれも個性的な選手たちで、かなり対照的な指名になりましたね。

 巨人1位指名の鍬原拓也(中大)の話題が出てこないことが寂しいのですが…。

 悪い投手じゃないけどな。即戦力というよりも、まだ伸びしろを持った投手という印象。2位くらいで獲れていたら「良い指名だね」って言えたんだけど。でも、巨人にしては珍しく清宮、村上と将来を見据えた1位指名だったと思う。その両方でクジを外してしまうところが今の状況を象徴しているような…。清宮や中村、それこそ村上あたりまで「巨人じゃなくてよかった」って思っていそうな勘繰りをしてしまうのも寂しいよ。

 最後にまとめると、両リーグの覇者である広島、ソフトバンクの黄金時代、また日ハム、DeNAの躍進、そして巨人の迷走はまだしばらく続きそうだと。そんなプロ野球の近未来が占えた今年のドラフトでした。