11月10日、日本代表がブラジル代表と強化試合で対戦する(日本時間夜9時キックオフ)。
ハリルホジッチ監督は最強のブラジルに勝つためにどんな戦い方を考えているのか? また、セレソン(ブラジル代表の愛称)を蘇らせ、W杯南米予選を圧倒的な強さで勝ち抜いた指揮官、チッチ監督の手腕は? 見どころを分析した。
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試合の前日会見で、56歳のブラジル代表監督は終始穏やかな表情で記者の質問に答えた。そしてスタメンも発表、これまでは先発に不動の11人を起用してきたが、コンディション不良の選手もおり、半分以上が変更された。
それでもメンバーの実力は見劣りしない。GKアリソン(ローマ)、DFラインは右からダニーロ(マンチェスター・シティ)、チアゴ・シウバ(パリ・サンジェルマン)、ジェメルソン(モナコ)、マルセロ(レアル・マドリード)、中盤はアンカーにカゼミーロ(レアル・マドリード)、インサイドにジュリアーノ(フェネルバフチェ)とフェルナンジーニョ(マンチェスター・シティ)、そして3トップは左からネイマール(パリ・サンジェルマン)、ガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ)、ウィリアン(チェルシー)。
「フェルナンジーニョには普段のクラブとは異なる役割を担ってもらうことになるが、彼には経験とスキルがあるので問題ないはず。ジュリアーノはより自由に動いてもらう。本当は(これまでは右ウイングを担ってきた)コウチーニョをここで起用しようと考えていたが、フィットネスが間に合わなかった。スタメンは確定している」
艶(つや)のある声で語る姿には、人心掌握に長(た)けた指揮官との評が確かなものだと想像できる。監督とともに会見に出席したウィリアンも今回の先発に抜擢されたひとりだ。モチベーションの高さと指揮官への心酔は発言からも伺い知れた。
「チッチが来てから、多くのことが変わった。チッチの就任は僕らにとって、ものすごく重要だった。本当に多くのことをもたらしてくれている。特にメンタル面を改善して、試合に対する集中力を高めてくれる。個人的にも自信を与えてもらっている。日本について? ビデオを見たけど、彼らはとても速くて、組織力もある。でも、僕らは自分たちのことにだけ集中するよ」
その後、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督の会見が行なわれ、先日のメンバー発表の時と同じように「ブラジルは現時点における世界一のチーム」と評した。
「長い間、ブラジルを見ているが、彼らは抜本的に変わった。以前はオフェンスのことしかしていなかったように見えた。だが、今のチームはブロックで守備をする。ブラジルが組織的にディフェンスをするようになったのは私が覚えている限り初めてのことだ。そして全員がハードワークをする。失点も非常に少なく、勝率も極めて高い」
「ブラジルを揺さぶりたい」
ただし、このボスニア・ヘルツェゴビナ人監督は、世界一のチームに対して善戦した経験を持つ。そう、ブラジルW杯のラウンド16のドイツ戦だ。当時、ハリルホジッチ監督はアルジェリア代表を率いて、延長戦で負けたとはいえ、ドイツを苦しめた(スコアは2-1)。
「ブラジルに勝てると思うか? 勝てると信じたい。冷静に真面目にこの試合を捉えなければならない。ブラジルのほうが強いだろう。世界で一番だ。でも我々もトライしなければならない。自分にはブラジルW杯でのドイツ戦の経験がある。彼らは当時、世界一の実力を有していて、実際にそうなった。このブラジル戦でも挑戦したい。守備だけで満足すれば、それは誤りだ。ブラジルを揺さぶりたい」
現在のブラジル代表の高い実力は誰もが認めるところだ。各ポジションに配されたトップ中のトップの選手たちが、これまでのブラジルになかったような団結とハードワークを見せる。実際、ブラジルは過去の大会で優勝した時、自慢の攻撃力を強調するよりも、しぶとく接戦をモノにするチームが多かった。
1994年W杯アメリカ大会のマリオ・ザガロ監督、2002年W杯日韓大会のルイス・フェリペ・スコラーリ監督が率いて、優勝したブラジル代表がそうだった。おそらくハリルホジッチ監督もそれを踏まえて「W杯ロシア大会の優勝に最も近いチーム」と評しているのではないか。
そんなチームとの試合は「自分たちの現在地を見つめる良い機会」とし、守備だけに集中するのではなく「ボールを奪った時にどうするか。誰につないで、誰が顔を出すか。そこまで全て話している」という。
日本のスタメンは発表されなかったが、誰が出たとしても積極的にトライしてほしい。相手はブラジルだが、これはあくまで親善試合であり、挑戦することに意味がある。
「リールは私の家族が住む“地元”だ。選手たちにも『勝ってくれなければ、私は自分の街を歩けなくなる』と言った」(ハリルホジッチ監督)
世界最高レベルの選手ばかりのブラジル代表に対して、日本代表はどんな戦いを見せてくれるのか。とても楽しみな一戦がキックオフを迎える。
(取材・文/井川洋一 写真/アフロ)