2008年以来、Jリーグ勢が長く遠ざかっていたアジアの頂点に浦和レッズが立った。
アジアのクラブ王者を決めるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦。約5万8千人の大観衆で埋め尽くされた埼玉スタジアムで、サポーターの後押しを受けたホームの浦和がアル・ヒラル(サウジアラビア)を1-0で下し、1-1で終わったアウェーでの第1戦と合わせてトータルスコア2-1とし、ACL優勝を果たすことに成功した。
戦前はアル・ヒラル優位と見られていただけに、浦和にとってはチームがひとつになって勝ち取った会心の勝利だった。
目立っていたのは浦和の戦い方だ。アウェーの第1戦では4-1-4-1で挑むも、予想通り、アル・ヒラルがゲームを支配。苦戦を強(し)いられたが、相手が再三のチャンスを逃してくれたこともあり、1-1という結果で終えることができた。
そこで浦和の堀監督は、第2戦では本来MFの長澤和輝を興梠慎三との2トップに配置した4-4-2にシステム変更。前線からプレッシャーをかけて相手のビルドアップの起点を抑え、さらに試合中に見えた綻(ほころ)びを修正すべく的確に選手を配置換えした点も大きかった。実際、FWの興梠と左MFのラファエル・シルバを試合終盤で入れ替えたことが、この試合の決勝点を生むきっかけとなっていた。
そういう点では、一貫してディフェンスを重視し、辛抱強く戦った堀監督の戦略と采配が光った試合だったと言ってもいいだろう。
浦和としては、2007年以来通算2度目の快挙。また、Jリーグ勢としては2008年にガンバ大阪が優勝して以来、通算3度目の偉業はこうして成し遂げられたが、前身のアジアクラブ選手権から大会が拡大、名称変更されてから今回で15回目を迎えたACLの過去を振り返ってみると、東アジア勢が西アジア勢を上回る“東高西低”の傾向が続いている。
とりわけ準決勝までは東アジアと西アジアと地区ごとに戦い、決勝戦で東西が合いまみえるというレギュレーションになった2014年以降、今大会も含めて東アジア勢が4連勝(オーストラリアも含む)。相変わらず西アジア勢の苦戦が目立っている。
この傾向の背景にあるのは、テクニックや身体能力など個人の力で上回る西アジア勢に対して、東アジア勢がチームとしての組織力を生かして粘り強く守り切る、という構図だ。
これは代表チームの戦いにおいても共通していることだが、西アジアのチームは攻守においてゴール前での雑なプレーが目立ち、粘り強さが欠けている印象は拭えない。それが、最終的な勝敗の分かれ目にもつながっている。
特にシュート精度の差は顕著だ。今回の決勝戦2試合においても、アル・ヒラルが放ったシュートは第1戦が20本で、第2戦は12本。同じく6本、11本だった浦和のシュート数を上回っている。これをさらに枠内シュートに絞ってみると、アル・ヒラルは第1戦が20本中5本、第2戦は12本中わずか1本。浦和が6本中2本、11本中5本という数字だったことと照らし合わせると、西アジア勢が抱える課題が浮き彫りになる。
サウジアラビア人選手と日本人選手の決定力の差
とはいえ、この数字の差がそのままサウジアラビア人選手と日本人選手の決定力の差になっているかといえば、そうでもない。東アジア勢のフィニッシャーは、基本的にはブラジル人を筆頭とする“助っ人外国人ストライカー”に頼っているケースがほとんどだからだ。
今大会の浦和にしても、12ゴールをマークしたラファエル・シルバがその役割を担っていて、浦和が前回優勝を遂げた2007年大会時も、ストライカーのワシントンとポイントゲッターのポンテ(いずれもブラジル出身)の得点力が際立っていた。
ところがJリーグの舞台に目を移すと、浦和のエースである興梠慎三は20ゴールを記録し、一方のラファエル・シルバは12ゴール(32試合消化時点)。しかしACLにおける興梠のゴール数はわずか4ゴールで、アジアの舞台ではストライカーとしての陰が薄くなってしまうのだ。
もちろん、ACLに挑むJリーグ勢の監督たちの采配も、この傾向を理解した上での選手起用になっているわけだが、そういう意味では浦和のアジア制覇の偉業を喜びつつも、その一方でこの問題から目を逸らすわけにはいかない。もはや、これは日本も含めたアジアサッカー界全体の課題ともいえるだろう。
いずれにしても、浦和がACLを制覇したことで、12月6日からUAE(アラブ首長国連邦)で開幕するクラブワールドカップに大きな注目が集まる。
クラブ世界一を競い合うこの大会で、浦和は12月9日の準々決勝から登場。対戦相手は開催国枠で出場するアル・ジャジーラとオセアニア王者オークランド・シティ(ニュージーランド)の勝者となるが、浦和の実力を持ってすれば難しい相手ではないはずだ。
そして、もし順調に準々決勝で勝利すれば、準決勝で待っているのはヨーロッパ王者のレアル・マドリード(スペイン)。昨年12月に日本で開催された同大会の決勝戦で、開催国枠で出場した鹿島アントラーズがもう一歩のところまで追い詰めたディフェンディングチャンピオンである。
12月13日、無事、浦和がそこに辿り着き、鹿島が成し遂げられなかった世紀のジャイアントキリングを実現させることはできるのか。浦和サポーターのみならず、日本のサッカーファンにとっては見逃せないクラブワールドカップとなりそうだ。
(取材・文/中山 淳 撮影/藤田真郷)