攻守両面でチームに貢献する、ジョージ・ワシントン大学の渡邊。尽誠学園高校で活躍後、アメリカに渡った23歳が、目標達成へ勝負の年を迎えている

「このサイズで、これだけ動ける日本人バスケットボール選手がいるのか」

2014年の秋にジョージ・ワシントン大学でプレーする渡邊雄太を初めて見たとき、その動きの質の高さに驚かされた。206cmの長身ながら、左右への動きは極めてスムーズで、シュート力、パスセンス、スキルまで備えている。これまで、日本人バスケ選手が少なからずアメリカに挑戦してきたが、これほどの素材にはお目にかかったことがなかった。

それから3年。日本人男子として、全米大学体育協会(NCAA)の1部でプレーする史上4人目の選手となった渡邊は、カレッジでの最後のシーズンを迎えている。魅惑的なサウスポーはアメリカでも話題になり、1年、2年時には『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』といった大手紙に紹介された。3年生となって迎えた昨季は、アトランティック10(A-10)カンファレンスの“オール・ディフェンシブ・チーム”にも選ばれている。

順調に階段を上ってきた渡邊にも、まだ成し遂げていない目標がある。アメリカすべてのカレッジボーラーの夢、“マーチ・マッドネス(3月の熱狂)”と呼ばれるNCAAトーナメントへの出場だ。

毎年3月、68チームのみが出場できる全国大会にアメリカ中が熱狂する。日本の甲子園にたとえられるこの大会への出場を、渡邊も1年生のときから熱望してきたが、まだ念願は果たせていない。昨季、ゴンザガ大学の控え選手としてトーナメントの決勝まで進んだ、八村塁(はちむら・るい)に先を越される形になってしまった。「今年を逃したら僕の人生で二度とチャンスはないので、なんとしてもトーナメントに出場したい」

そう語る渡邊が悲願を叶えるためには、自身の活躍が不可欠だ。昨季から多くの選手が入れ替わって層が薄くなったワシントン大は、トーナメント出場が難しいと目されている。夢に近づくために、渡邊がチームの大黒柱にならなければならない。

「今年は、ディフェンス面では常に相手のエースをマークして、さらに自分が点を取って、リバウンドも取って、アシストもして…ベストプレーヤーとして、すべてに取り組んでいくつもりです」

そんな本人の言葉どおり、渡邊はA-10カンファレンス全体が注目する存在になった。入学からの3年間で、平均得点を7.4→8.4→12.2と順調に伸ばし、今季は完全開花の1年となる。チームも、19得点を挙げた渡邊の活躍もあって開幕戦を制するなど、上々のスタートを切った。

米大学バスケの層の厚さを考えれば、“マーチ・マッドネス”出場をかけたチームのエースを、日本人選手が担っているだけでも十分な快挙だ。たとえ、NCAAトーナメントに手が届かなくても、シーズンを通して存在感を示すことができれば、さらに大きな目標が見えてくる。同じく高い評価を得る八村と共に、渡邊もNBAのスカウトたちの視界に入っていることは間違いない。

04年の田臥(たぶせ)勇太に次ぐ、日本人史上2人目のNBAプレーヤー誕生へ。日本男子バスケ界の将来を担うスター候補から、しばらく目が離せそうにない。

(取材・文/杉浦大介 写真/ゲッティイメージズ)