W杯組み合わせで日本の入ったグループHを分析した宮澤ミシェル氏 W杯組み合わせで日本の入ったグループHを分析した宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第25回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、2018年6月に開催となるW杯ロシア大会の組み合わせ。グループHに入った日本は、強豪を相手にどのように戦うべきなのか? 対戦相手ごとに分析する。

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注目だったW杯グループリーグの組合せ、その抽選会で、まさか最後まで日本代表が出てこないなんて思わないから劇的だったね。

日本代表はH組に決まったけれど、ドイツ、メキシコ、スウェーデンの待つF組に入ってもいいんじゃないかと正直思っていた。確かに世界王者のドイツは強過ぎるけど、残りの2ヵ国は中南米とヨーロッパのチームだから、過去のW杯で南米勢、アフリカ勢を苦手にしている日本にとっては戦いやすい相手だったのかなとも考えたからだ。

ただ、決まったものは変えられないからね。ポーランド、セネガル、コロンビアの3ヵ国に照準を合わせて、しっかりグループリーグを突破できるように準備を進めてもらいたい。

H組の印象としては、FIFAランク7位のポーランドよりもコロンビア、セネガルといった、ある意味、型破りで破天荒なチームがいることが日本代表としては厄介。特にセネガルが不気味な存在だ。

アフリカ最終予選はブルキナファソ、カーボベルデ、南アフリカと同組で4勝2分けの無敗で突破。しかも失点したのは1試合だけ。GK、CB、中盤に190cm台の屈強な選手が4、5人いて、攻撃にはリバプール所属でスピードのあるマネがいる。かなり手強い相手だ。

セネガルといえば、2002年W杯日韓大会の印象が強烈だね。グループリーグの初戦でいきなり前回王者のフランスを撃破したのを現地のスタジアムで観たけれど、彼らの身体能力の高さには本当に驚かされた。

あのフランスを相手に、ポジショニングが多少悪くてもダッシュ力と身体能力で修正してしまうんだから。今回のセネガル代表があの時と同じように身体能力を前面に押し出してくるようだと、日本がどこまで粘れるのか心配ではある。

とはいえ、当時はサイドチェンジへの対応が弱いとか、DFラインの間でボールを受けてDFを引っ張り出すとラインにギャップが生まれるという守備の穴も目立った。そういう組織的な詰めの甘さが、今回のセネガル代表に残っていれば、日本代表にもチャンスはある。

今回のセネガル代表の個々の選手が所属している欧州リーグでの試合は観ているけれど、代表チームとしての情報はまだ少ない。それだけに不気味な印象を増長させているね。

ただ、ハリルホジッチ監督は前回ブラジル大会でアルジェリアを率いていたし、その前にもコートジボワールで指揮したこともあるから、セネガルの情報は持っているはず。それを最大限に活かして勝負してもらいたい。

そのセネガル戦のためにも、もっとも重要なのがコロンビアとの初戦。日本代表は是が非でも引き分けに持ち込んで勝ち点1を奪わなきゃいけない。

前回大会のコートジボワール戦の二の舞は避けてほしい

コロンビアは前回ブラジル大会で日本に4対1で勝っているから、油断して試合に入ってきてくれたら最高だ。日本は開始直後から120%の力で臨み、前線からプレスをかけて相手よりも先にゴールを奪う。

今回のW杯は涼しい気候のロシアでの試合。だから、暑さという点で問題は少ないからスタミナを持続しやすいはずなので、この1試合にすべてをかけて最後までプレスをかけ続けてほしいね。それで1—1か0-0の引分けで勝ち点1が取れたら理想的なスタートだ。

前回大会の初戦、コートジボワール戦は先制点を奪ったけれど、後半に2ゴールを決められて逆転負け。相手がリスクを冒して前に出てきた時に前線からプレスをかけるのか、それとも自陣にドン引きして守り抜くのか。あの試合では監督もそこで迷ってしまった印象だ。約100秒間で2失点した教訓をロシア大会で活かしてもらいたい。

3戦目に当たるポーランドは欧州予選を無敗で突破し、世界ランキング7位とグループ内で最上位。数字だけを見れば最も手強い相手だけれど、日本代表にとっては比較的戦いやすい相手だと思う。

確かにFWのレバンドフスキはDFからしたら非常に厄介。プレーエリアが広くてつかまえにくいし、ヘディングは強いし足元もうまい。何より、タイミングがつかみにくい。シュートを打つ時に“タメ”を作れるフィジカルの強さがある。だからDFがシュートブロックに足を出しても、それをかわしてシュートに持ち込まれる。

去年のEURO(欧州選手権)がそうだったように、ポーランドはレバンドフスキが決めないと勝ち切れないチームでもある。それだけに、来年で30歳になるバリバリの彼がケガでもしてくれないかと少しは思ってしまうよ(笑)。そうはいっても、前回大会はファルカオを故障で欠いたコロンビアに日本は完敗しているから、どんな相手でも止められるように本番まで守備をさらに向上させてもらいたい。

実際、レバンドフスキ以外にもヤクブ・ブワシュチコフスキ(ボルフスブルク)、グジェゴシュ・クリホヴィアク(パリSG)など、いい選手が他にもいる。だが、全盛期は過ぎた感はある。彼らをしっかりと抑え込んでいけば、決して勝ち点を奪えるチャンスがない相手ではない。

仮にポーランドが初戦のセネガル、2戦目のコロンビアに2連勝してきてくれたら、決勝トーナメントを見据えて主力を温存してくる可能性は高い。そうなれば、贅沢を承知の上で日本代表はここで勝ち点3を奪える可能性だってある。

ブワシュチコフスキをはじめ、解説者泣かせの言いづらい名前が多いから、彼らが活躍すると試合中に口が回らなくて大変なことになるし、実況アナウンサーや解説者が日本代表の選手名だけを言い続けていられる試合にしてほしいね(笑)。

また、初戦でコロンビアに負けたとしても、2戦目でセネガルに勝利して、ポーランドに引き分けて勝ち点を4まで伸ばせれば、決勝トーナメントに進出できる可能性はある。現実的に考えたら日本の3連敗も十分ありうるグループだけど、最高のパフォーマンスを発揮して勝ち進んでくれることを期待しているよ。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。