ロナウド(写真右)とベイル(左)のゴールで、格下のアルジャジーラになんとか勝ったレアル・マドリード。

これだからサッカーは面白く、また怖くもある。

UAEで開催されているFIFAクラブワールドカップ準決勝で、レアル・マドリード(スペイン)がアルジャジーラ(UAE)を2-1で下した。

スコアだけを見れば、至極順当な結果である。わずか1点という僅差が少し意外な印象を与える程度だろう。

だが、実際の試合はドキドキもワクワクもハラハラも、とにかくいろいろな要素が詰まった極上のエンターテインメントだった。なんと言っても、欧州チャンピオンズリーグを連覇している“あのレアル”が、UAEの(世界的には)無名クラブに土俵際まで追い詰められたのだから。

試合はキックオフ直後から、レアルが一方的に攻めたてた。一歩間違えば、10分ほどで4、5点入っていても不思議はなかった。

ところが、アルジャジーラはGKアリ・カセイフの好セーブ連発に加え、いくらかの運も味方につけて、世界屈指のスター軍団を無得点に抑えていく。

すると41分、アルジャジーラDFが自陣深くから大きく蹴り出したボールをレアルDFがうまく処理できず、もたついたところをMFブスファが拾って進み、最後はFWロマリーニョが決めて、アルジャジーラがまさかの先制点を奪ったのである。

アルジャジーラはなりふり構わず守備を固め、カウンター、それもロングボールを大きく蹴り出す前時代的なカウンターに徹するしかなかった。現代においては、あまりお目にかかれないサッカーである。

ところが、アルジャジーラのヘンク・テンカテ監督が「正直、ラッキーな面はあったが、(カウンター狙いの)戦術がすばらしく機能した」と語ったように、そんな古典的なカウンターがまさかのミスを呼んでゴールにつながるのだから、サッカーはわからない。

試合は思わぬ方向に転がった。だが、残り時間を考えれば、レアルが慌てる必要もなかった。ところが、さすがのスター軍団も泡を食った。早くも時間稼ぎを始めるアルジャジーラの選手たちに苛立ちを見せ、ボールを持てば攻め急いだ。

そして後半開始直後の47分、極上のエンターテインメントは最大の見せ場を迎える。

味方のクリアボールを拾ったアルジャジーラのFWアリ・マブフートが、ハーフウェーライン手前からドリブルで独走。追ってくるレアルDFを振り切り、最後はゴール前にラストパスを送ると、そこへ走り込んだMFブスファが難なく右足で流し込んだ。ウソのようなカウンターがまたしてもハマり、レアルにとっては致命的な2点目が決まった…かに思われた。

だが、一度は認められたゴールがVAR(※)によって覆る。ラストパスを受けたブスファがオフサイドだったとし(確かに体半分、オフサイドポジションに出ていた)、ノーゴールとなったのだ。(※ビデオ・アシスタント・レフェリー=ピッチ上とは別に、モニターでプレーを確認する審判が得点や退場などの重要な判定に関わるプレーをビデオ検証する。)

これで命拾いしたレアルは、FWクリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイルのゴールで逆転。終わってみれば、順当に勝利を収めたのである。

両監督が、奇しくも揃って口にした言葉

言うまでもなく、試合を大きく左右したのは、幻のゴールとなった2点目である。これが決まっていれば、大番狂わせの可能性はさらに高まり、裏を返せば、2点のビハインドを追うレアルがどう出るかも見ものだった。試合がその後にどう転んだとしても、さらに盛り上がったはずで、なんとも惜しいオフサイドだった。

両者の格の違いを、例えて言うなら、横綱と幕下…いや、もっと大きな差があるだろうか。アルジャジーラから見れば、レアルは別世界のチームだと言ってもいい。にも関わらず、レアルが敗れるようなことがあれば、歴史的大事件である。たとえレアルが本気でないのは明らかだったとしても、だ。

そして、それは実際に起きかけた。アルジャジーラのテンカテ監督、レアルのジネディーヌ・ジダン監督が、奇しくも揃って口にした言葉が印象深い。

「これがサッカーだ」

2000年に開催された前身の世界クラブ選手権も含め、今回で14回目を迎えるクラブW杯だが、近年はヨーロッパ王者の1強状態が続いており、開催そのものを疑問視する声も少なくなかった。

だが、こうした“超”のつく大番狂わせが起こりうるのも、この大会ならではだ。勝って当然、負ければ赤っ恥のヨーロッパ王者はたまったものではないだろうが、これはこれで、試合のレベルはともかく、単純にエンターテインメントとしてなかなかに面白い。

日本を含めたサッカーの発展途上地域に夢や目標を与えるという点では、それなりに意義のある大会なのではないだろうか。この大会の発展的解消(出場クラブ数を増やし、4年に一度の開催になると一部で報道されている)が計画されていることは仕方ないと納得する一方、残念でもある。

さて、どうにかこうにか決勝進出を果たしたレアルだが、決勝で対戦する南米王者のグレミオ(ブラジル)は強固なディフェンスを武器とする相当な難敵だ。アルジャジーラ戦のようなもたつきを見せるようなら、今度こそ苦杯をなめる可能性は高い。

昨年までヨーロッパ王者が4連覇中だが、リーガを見ても、UEFAチャンピオンズリーグを見ても、本調子にはないレアルだけに、グレミオの老獪(ろうかい)な戦いに屈しても不思議はない。

決勝は、現地時間12月16日の21時キックオフ(日本時間12月17日2:00)。久しぶりにヨーロッパ王者が敗れるかもしれない一戦に要注目である。

(取材・文/浅田真樹 写真/Getty Images)