サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第26回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、前回に続き2018年6月に開催となるW杯ロシア大会の組み合わせ。グループHに入った日本が、強豪を相手に戦うスタジアムや現地の気候や環境まで踏まえて、チームにとって最も重要なことは何かを考察!
******
W杯ロシア大会で日本代表はポーランド、セネガル、コロンビアとH組を戦うことになった。初戦のコロンビアとはサランスク、2試合目のセネガル戦はエカテリンブルク、そして第3戦のボルゴグラードで行なう。
今年6月にコンフェデレーションズカップの取材でロシアに行った時には、日本代表が戦うことになる3つのスタジアムでは試合が行なわれなかった。だから、私のほかNHKの解説陣では山本昌邦さんも小島伸幸さん、福西崇史さんもまだ誰も行ったことはないと思う。
ただ、3会場とも気候は涼しい位置にあるから、攻守で豊富な運動量が求められる戦い方をする日本代表にとって、環境としては恵まれたスタジアムで試合ができると言ってもいいだろう。
初戦の会場になるサランスクはモスクワからおよそ650キロ南東にあって、人口60万人。時差は6時間なので、日本でもTV観戦がしやすいはず。開催都市の中で一番小さな都市でホテルの数も多くないらしいから、現地へ応援に行く人は早めに手配したほうがいいようだ。
サランスクの6月の平均気温は18度。これも日本代表にとって味方になるはずだ。気温が高くないだけに、コロンビア戦では試合開始直後から前線からの激しいプレッシャーをかけて相手を自分たちのペースに引きずり込める。
もし、幸運にもその時間帯に1点が取れれば、同点にしようとする相手が前がかりになるから、カウンターでの追加点も狙いやすくなるし、先制点が取れなくても、コロンビアの攻撃のリズムを狂わせることができる。
前回ブラジル大会の初戦は、コートジボワールから前半16分に本田圭佑のゴールで先制したけれど、気温26度、湿度77%の中で体力的に保たなくなって、後半19分、21分に立て続けにゴールを奪われて逆転された。
だけど、今回は仮に0−0の引分けで前半を終え、コロンビア代表が確実に勝ち点3を奪うため、後半に猛攻を仕掛けてきても、気温が18度くらいなら日本代表のスタミナも最後まで保つはずだ。
隙を突いてカウンターからゴールを奪えれば最高だが、それはなかなか難しいはずなので、なんとか最後まで粘りきって勝ち点1をもぎ取ってもらいたい。とにかく、W杯の初戦で敗戦すると決勝トーナメント進出の芽はほとんど消えてしまうことになるから、涼しいサランスクで試合ができるメリットを活かして試合終了まで走り切ってもらい、引き分けで入れたら最高のスタートだ。
試合会場の気候と同じくらい重要になるのは…
2戦目のエカテリンブルクは開催都市の中では最も東に位置し、モスクワから東に1400キロ。日本との時差は4時間。旧ソ連時代から鉄鋼業などで栄え、人口は140万人。ここも6月の平均気温は17度だから、環境としては恵まれている。ただ、初戦も含めて、芝の状態が懸念点ではある。日本代表は11月の欧州遠征(ブラジル戦、ベルギー戦)でも芝に足を取られたり、滑らせたりするシーンが目立ったからね。
3戦目のボルゴグラードはモスクワから南東に900キロで、人口は100万人。ここは気温が若干高くて、平均21度。涼しい環境に慣れてしまうと、20度を超えると急に暑くなったように感じるものだけれど、そこは相手のポーランドも条件は同じ。グループリーグ最終戦だから、そこはグッと我慢して最後まで頑張ってもらい、相手のエースストライカーであるレバンドフスキを封じて、決勝トーナメント進出を決めてもらいたいね!
日本代表がグループリーグを戦う上で、試合会場の気候と同じくらい重要になるのがキャンプ地だ。気候や移動距離がコンディションに影響するのは確実なので、ベストな場所にしてほしいよね。
キャンプ地として有力視されているカザンはロシアでも10本の指に入る大都市で、モスクワから東に800キロのところある。飛行機なら1時間ちょっとだ。去年、コンフェデ杯を取材した時もここを拠点に動いたけど、各都市へ移動するのは便利だし、食べ物が美味しい素敵な街だった。ただ、現地の人に聞いたら、2戦目が行なわれるエカテリンブルクには直行便がないとのこと。問題があるとすればそこだろう。
前回ブラジル大会で優勝したドイツは、バイア州の1万4000㎡の広大な敷地にトレーニングキャンプ地を自前で作った。練習場、ホテル、メディアセンターなどの施設をゼロから建設して、万全の準備を整えて大会に臨んだわけだ。
この規模を真似ることは簡単ではないけれど、それくらいキャンプ地選びは重要ということ。ロシア大会で選手たちが最高の結果を残せるように、日本サッカー協会の最大限のバックアップを期待したい。
(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。