
今季、4年ぶりに50試合登板を果たした中日ドラゴンズ・岩瀬仁紀(ひとき)投手(43歳)。
「通算1千試合登板」の大記録まで残り46試合に迫った“竜の鉄腕”が、レジェンド左腕・江夏 豊氏に現在の心境を明かした。
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江夏 カムバック賞、それからコミッショナー特別賞受賞、おめでとう。
岩瀬 ありがとうございます。
江夏 あなたはほぼ2年間故障などでブランクがあったけど、今年6月には月間MVPも獲った。何が良かった?
岩瀬 去年のオフからピッチングを思い切って変えたんです。投げ方も握りも全部変えて。それがいい結果につながりました。
江夏 ほお。どういうふうに変えた?
岩瀬 今までは腕の軌道を意識しながら投げてたんですけど、それをもうやめました。軌道はまったく意識せず、「えいっ」と思い切って投げるようにしたんです。
江夏 そんな大ざっぱな投げ方をして、ちゃんと思いどおりに投げられたか?
岩瀬 いいときは投げられました。でも、悪いときは…。今だから言いますけど、僕は今年座骨神経痛にすごく悩まされて、痛みが軸足のほうに出てから苦労し始めたんです。それがなければ、新しい投げ方もしっくりきていました。
江夏 そうだったか。それにしても、投げ方を変えるのは相当、思い切った決断だっただろう?
岩瀬 そうですね。去年、引退を考えた時期があったんですが、そこから「もう一年がんばろう」と思い直したとき、踏ん切りをつけたんです。今までのことはすべて捨ててでも、新しいことに取り組んでみようと。
江夏 うーん…。それは大変だったなあ。今までの自分を捨てて、新しいスタイルを自分で求めていくというのは。
岩瀬 もうまったく変えたので、どれぐらいできるか計算できないですし、想像もできなかったです。でも肘に不安がありましたし、変えなければ結果を出せないと思ったので。一度死んだ身だと思って、新しくしました。
江夏 実際、新しいスタイルで投げてみてどうだった?
岩瀬 感触はつかんでました。「あっ、こういうボールを投げていれば抑えられるんだ」ということがわかりました。
江夏 つかんだもので、一番大きいものは?
岩瀬 やっぱり、真っすぐですね。スピード自体はないんですけども。
江夏 もともとスピードはなかったもんな(笑)。
岩瀬 あっ、はい(笑)。
江夏 そんなに飛び抜けるような真っすぐじゃなかった。
岩瀬 そうですね。ただ、スピードはないけど真っすぐで押せているという感触が得られたとき、「ああ、自分はまだ現役でやれるな」と思えたんです。
江夏 自分自身、「岩瀬といえばスライダー」というイメージだった。それがスライダーで自信を持ったんじゃなしに、真っすぐでまだやれると思ったわけ?
岩瀬 はい。僕といえばスライダーというイメージを抱いてくださる方が多いですけど、結局、若いときも原点は真っすぐでした。いかに真っすぐを見せてからスライダーを出せるか。「真っすぐで押せていないと通用しない」という感覚はずっとありました。
江夏 やっぱりピッチャーの基本は真っすぐだよな。どれだけ素晴らしい変化球を持っていても、それを生かすのは真っすぐなんだよ。
岩瀬 僕はそう思ってます。
江夏 オレもそういう考えだったからね。いかに真っすぐが大事か。そのことをあなたはあらためて悟ったわけだ。
◆この対談の続きは、『週刊プレイボーイ』1・2合併号(12月18日発売)「江夏豊のアウトロー野球論年末SPECIALレジェンド左腕対談」にてお読みいただけます!
●江夏 豊(えなつ・ゆたか) 1948年生まれ、兵庫県出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武などで活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ。
●岩瀬仁紀(いわせ・ひとき) 1974年11月10日生まれ、愛知県西尾市出身。1999年にドラフト2位で中日ドラゴンズに入団。新人ながらリーグ優勝に貢献し、最優秀中継ぎ投手賞を受賞。2004年には落合博満監督から抑えに指名され、翌年に日本プロ野球新記録(当時)となるシーズン最多46セーブを達成。そのほか通算最多954試合登板、通算最多404セーブ、15年連続50試合登板、9年連続30セーブなど、数々の記録を残している。
(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)