現地時間12月16日に決勝が行なわれ、レアル・マドリードの2連覇で幕を閉じた今年のクラブワールドカップ。この大会でアジア王者として出場した浦和レッズと同様、日本で注目を集めたのが北中米カリブ海王者のパチューカ(メキシコ)である。
言うまでもなく、本田圭佑が所属していることが、その理由だ。
2010年ワールドカップ以降、日本代表の中心選手としてプレーしてきた本田だが、このところは“落選”が続いており、絶大だった存在感も薄れ始めている。
昨季限りでミラン(イタリア)を離れ、パチューカに新天地を求めたが、イタリアに比べると、メキシコから日本に入ってくる情報は多くない。それだけに現段階でどんなコンディションにあり、どんなプレーを見せるのかが注目された。
結論からいえば、本田は上々のプレーを見せた。3位決定戦はその後のメキシコ国内での試合を優先して欠場したものの、それまでの2試合では延長を含めた計240分間にフル出場。実力的にはパチューカより上の南米王者、グレミオ(ブラジル)との試合でも何度か惜しいチャンスを作り出している。
右足にテーピングを施して試合に臨んでいたあたりにやや不安は残るが、本人によればケガは「問題ない」とのこと。少なくともピッチ上の動きを見る限り、コンディションは上昇傾向にありそうだ。
パチューカの一員として3位で終えた今大会の印象について、本田はこんな話をしている。
「独特ですよね。大会として課題もあるんでしょうけど、結局、レアルの試合しか満員にならないところとか面白い。どうしてもワールドカップと比べてしまうと、国の威信をかけて戦うものとちょっと違うかなという感じはしますけど。とはいえ、この大会はこの大会のよさを感じたなというのが率直な感想です」
そして、クラブW杯が終わった今、冬の移籍期間で再びヨーロッパのクラブへ移るのではないか?との報道があったことについては「僕も知り合いを通じて(報道があったことを)聞くんですけど、全く移籍する意思はないというか、短期でヨーロッパに戻るとかそういうつもりでパチューカを選んだわけじゃないですから」と否定した。あくまでもメキシコの地で捲土重来を期すというわけだ。
本田自身、自らの日本代表復帰が簡単ではないことをはっきりと認識している。ロシアW杯について質問されても「それ(メキシコでの経験が生かせること)はいろいろあるけど、僕は当落線上なんでね。まず、そこですよね。(日本代表入りが)セーフティーじゃないんで」と語るにとどまり、具体的に言及することはしなかった。
外国人記者から英語で、CSKAモスクワ時代のチームメイトとは連絡を取っているのかと尋ねられた時も「もし僕がワールドカップでプレーできれば、ロシアで彼らに会えるのを楽しみにしている」としながらも「そのためには、まずは1月からワールドカップまでの半年間で、いいプレーをしなければならない。そうでなければ、僕はそこにいないかもしれない」と語っている。
4失点したっていうのは、今の日本のサッカー界を象徴している
だが、淡々とした口調とは裏腹に、日本代表に対する思いが人一倍強いことを窺わせたのは、パチューカの3位決定戦が始まる数時間前に入ってきた衝撃のニュース、すなわち、E-1選手権で日本が韓国に1-4で敗れたことに話が及んだ時だった。
自らインターネットでチェックしていたのか、あるいは知人から知らせを受けていたのか、いずれにしろ、報道陣から聞かされずとも惨敗の事実を知っていたようで「4失点したっていうのは、今の日本のサッカー界を象徴しているかなって、正直思いますけど」と語り、さらにこう続けた。
「(E-1選手権のメンバーには)これまで日本代表でプレーしてきた選手がほとんどいなかった。例えば、ヤット(遠藤保仁)さんみたいな引っ張ってきた選手がいなくなって、かつ海外組がいないと。それはでも韓国も一緒。だから、なんの言い訳もできる状況はない」
しかし、だからこそ日本代表の惨敗が悔しく、また悲しかったのだろう。敗戦の事実だけでなく、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が残した「韓国のほうが格上だった」などのコメントもすでに知っていたようで、「かと言って、謙虚に相手は強かったとかって言うのは…」とポツリ。そこまで話すと、ひとつふたつ言葉を飲み込むように、ひと呼吸置いてから苦笑交じりにこう続けた。
「もうあんまりしゃべらせんといてください。メチャメチャなこと言っちゃいそうなんで」
今大会を見る限り、本田の状態は間違いなく上がっている。夏頃までの日本代表戦で見せていたプレーに比べれば、随分と差を感じる。もちろん、様々な条件に違いがあり、それぞれのプレーを一概に比較はできないが、今なら日本代表に加わる資格は十分にあるだろう。
ただし、今の日本代表が必要としているのは、恐らく一選手としての本田のプレーだけではない。彼のメンタリティや、強い意志を周囲に伝えられるモチベーターとしての能力こそが求められているのではないだろうか。言葉を飲み込む本田を見ていると、そんなことを思わされる。
いずれにしても、本田待望論に再び火がつくのは間違いなさそうである。
(取材・文/浅田真樹 写真/Getty Images)