榊原氏はPRIDEを主宰していたが、フジテレビの撤退を機にその運営が困難になり、2007年、米UFCを運営するズッファ社がPRIDEを買収。しかし同社がPRIDEを開催することはなかった。榊原氏はFC琉球の運営などを手がけていたが、ズッファ社に課されていた競業禁止期間が終わると格闘技界に復帰。RIZINを旗揚げした

2015年10月、RIZIN旗揚げ発表と同時に週プレは「PRIDEが復活!」の大見出しを打ち、榊原信行(さかきばら・のぶゆき)RIZIN実行委員長の世界最速・独占ロングインタビューを敢行した。

そこで榊原氏は「PRIDEの亡霊と闘ったって勝てない」としながらも「PRIDEをぶっ壊すつもりでやっていく」と発言。

昨年の大晦日の視聴率は6.4%と、かつてのようなブームには至っていない。しかしKOや一本での決着が連続し、若きスターたちが日本MMA(総合格闘技)の新たな魅力を示した。

この魅力を、主催者である榊原氏は今後、世の中にどう伝えていくのか? 果たしてRIZINは「PRIDEの亡霊」を殺すことはできたのか―。

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―2015年のインタビューで、RIZINの基軸となる「三本の矢」として、PRIDEのレジェンドに引退の場を提供する「完結」、新たなスターを誕生させる「息吹」、世界中の猛者が目指す舞台を創る「未来」を挙げていました。

榊原 「三本の矢」は着実に実行できていて、まず「完結」に関して言えば、ミルコ・クロコップが今年の年末に引退します。

昨年大晦日には、五味隆典がUFCから日本のリングに戻ってきました。UFCでは3年間勝ち星がなく、アスリートとしてはもう終わったと言われても仕方がない。しかし、入場時に大「五味コール」が起きた。

いまだにそれだけの求心力を持っていることに正直驚いたし、その熱に応える躍動感のあるファイトを見せてくれた。負けはしましたが、やはり五味にはファイターとしての色気がある。勝った矢地祐介の光を完全に消しましたから(笑)。

―ふたつ目の「息吹」に関しては、やはりRENAと那須川天心(なすかわ・てんしん)の飛躍が大きいですか?

榊原 そうですね。15年にMMAデビューしたRENAがこの2年で積み上げてきたものをかけて、女子初のトーナメントに臨んで壮絶に散るというドラマチックな展開になった(決勝で新鋭・浅倉カンナのチョークで失神)。そこには、格闘技のダイナミズムのすべてが詰まっていた。

天心にしても、知る人ぞ知る存在だったのに、この一年でRIZINのひとつの顔になった。このふたりは格闘技界を超えて多くの人を魅了するところまできていると思います。

―そして最後の「未来」は、国内外の団体と競合するのではなく協力関係を築き、サッカーのチャンピオンズリーグのように、各団体のトップ選手が参戦するトーナメントを開催するというフェデレーション(連盟)構想でしたが…。

榊原 15年にヘビー級、16年に無差別級、昨年はバンタム級と、3年連続で年末にトーナメントを開催しました。バンタム級は堀口恭司が優勝しましたが、彼のように世界を向こうに回して闘える“本物”の存在は必要だと痛感しましたね。

その“本物”を目指して、世界中のファイターが集う。ワンマッチではそこまで求心力を持ちえないカードでも、トーナメントの中に入ることでゲーム性・ドラマ性が圧倒的に増します。このトーナメントという仕組みの面白さ、つまり「未来」を十二分に提示できたのではと思います。

PRIDEの亡霊や幻想からは脱却できた

―“本物”がいることで競技としての説得力も増します。

榊原 堀口にはPRIDEの頃の桜庭和志のにおいを感じる。もちろんRIZINはまだPRIDEを超えてはいないけれど、2018年は飛躍の年になるんじゃないかな。マグマが一気に噴き出すような熱をつくり出せているとは思います。

堀口、RENA、天心がいることで、PRIDEの亡霊や幻想からは脱却できた気がします。

―特にRENAは中継における“視聴率女王”。ぶっちゃけ、フェデレーションとして海外のトップファイターを高いファイトマネーを払って呼ぶより、女子を軸に新たな世界観をつくっていったほうがいいんじゃないかと思うんですけど。

榊原 費用対効果的にはそうでしょうね。男子のMMAは進化が行き着くところまでいって、コンプリートな総合格闘家が多い。そうすると、レベルは高いけれど面白みのある試合にはならない場合があるんですね。

だけどわれわれが提供したいのは、異種格闘技のようなジャンル対ジャンルの闘い。本来交わるはずのない者が相まみえることで生まれる熱やアングルなんです。女子MMAは男子ほど成熟していないからそれが可能で、PRIDE時代のような競技という枠からハミ出すマッチメイクができる。

―16年秋のRENAvs山本美憂はまさに立ち技vsレスリング、女の果たし合いでした。

榊原 そうですね。それと、女子選手たちは「ようやく私たちの時代が来た」という思いがあって、ここで頑張ろうっていう意識が強い。

大晦日、RENAに勝った浅倉カンナだってそう。この一年でどれだけ成長したの!っていうくらい強くなっていた。女子の試合の視聴率は全体的に上向きになっていて、実際、大晦日の瞬間最高視聴率もRENAvs浅倉でした。

―女子格闘技がここまでブレイクするとは想像してました?

榊原 女子、特にRENAのブレイクはうれしい誤算でしたね。旗揚げ当初は、その2年後に女子のトーナメントができるとは思っていなかったですから。

●この続き、インタビュー全文は『週刊プレイボーイ』6号(1月22日発売)にてお読みいただけます!

(取材・文/“Show”大谷泰顕 撮影/乾 晋也)