欲しい選手がいるなら、ライバルチームの看板選手だろうと遠慮せずにオファーを出せばいいと語るセルジオ越後氏 欲しい選手がいるなら、ライバルチームの看板選手だろうと遠慮せずにオファーを出せばいいと語るセルジオ越後氏

Jリーグの移籍市場で予想外の動きがあった。齋藤学の川崎への加入だ。

齋藤といえば下部組織からの横浜FM生え抜き。昨季開幕前には海外移籍も取り沙汰されたけど、一転残留を決断。磐田に移籍した(中村)俊輔の10番を新たに背負い、主将も務めた。昨年9月に右ひざに大ケガを負って全治8ヵ月の診断を受けたものの、それまでは俊輔の抜けたチームを、文字どおり牽引(けんいん)する活躍を見せていた。

そんなチームの顔ともいえる選手が、移籍金の発生しない「0円移籍」で、同じ県内のチームに移籍することについて、「裏切られた」と感じるサポーターも多いようだ。

移籍の理由について、クラブを通して発表された本人のコメントは「より難しいところにチャンレンジしたい」「一から自分を作っていきたい」という漠然としたもの。本音は読み取れない。「強いチームに行って、タイトルを獲りたい」であればわかりやすいんだけどね。いずれにしてもスッキリした移籍には見えない。

周辺状況からの推測になってしまうけど、基本的な構図としては、おそらく昨年の俊輔の移籍と同じなのではないか。横浜FMは2014年から外資のシティ・フットボール・グループが事実上の経営権を握っている。昨年はその運営方法に不満を抱えていた俊輔が、「サッカーに集中したい」と磐田への移籍に踏み切った。齋藤もこの1年間、もしくは契約延長に向けての交渉の席で何かを感じたのではないか。もっと、そこに目が向けられていい。

その一方で、シンプルに川崎のオファーに魅力を感じたのかもしれない。川崎は昨季リーグ優勝し、巨額のDAZNマネーを手にした。横浜FMとは比較にならない条件を提示した可能性もある。僕は常々言っていることだけど、プロなら自分をより高く評価してくれるクラブを選ぶべき。プロの評価とはお金だ。今よりも高い年俸を提示するクラブがあるならば、それを拒む理由はない。“生え抜き”や“チームの顔”は、どんなに条件がよくても、ライバルクラブに移籍すべきではない、というのはアマチュア的な考え方。選手の可能性を潰しかねない。

フロントはサポーターに丁寧な説明をすべきだ

ちなみに日本サッカーで僕がいつもヘンだなと思う光景がある。選手の移籍先が海外のクラブだと、たとえ0円移籍でも盛大なセレモニーを行なって送り出す。それが国内移籍になると、今回の齋藤のように「裏切り者」と呼ばれることもある。中身は同じ正当な移籍なのに不思議だよ。

まあ、そう言われてもサポーターの立場からすれば割り切れないだろうし、気持ちはわからなくもない。ただ、やはり文句を言う相手は齋藤ではなく、齋藤に出ていきたいと思わせたフロントではないだろうか。2年連続で10番の選手が出ていくなんて、やっぱり普通じゃないから。フロントはサポーターに丁寧な説明をすべきだ。

齋藤の故障からの回復状況がわからないけど、アジアチャンピオンズリーグを戦う川崎にとっては選手層を厚くするいい補強。また、こういう“引き抜き”は話題性という面でも効果大。前回も言ったように、欲しい選手がいるなら、ライバルチームの看板選手だろうと遠慮せずにオファーを出せばいい。こういう動きはJリーグにもっと欲しいね。少なくとも今年の横浜FMと川崎の対戦は相当盛り上がる。今から楽しみだ。

(構成/渡辺達也)