入団テストを経て、年俸1500万円プラス出来高(推定)で中日入りした松坂大輔。今年結果を出せなければもう後がないことは、本人が誰よりもわかっているはずだ。

「いい最後を日本で。そんな道を私がつくってあげてもいいかなと思った」

昨季限りでソフトバンクを退団した“平成の怪物”松坂大輔の入団テストが行なわれ、即日合格が発表された1月23日、中日・森繁和(しげかず)監督はそうコメント。松坂本人も、「やり残したことは多く、このままでは辞められないと思っていた」と、現役が続けられることを喜んだ。

「年俸は1500万円プラス出来高といわれており、球団からすれば『戦力になってくれたら儲けもの』という程度の期待度。人気、話題性を買われての入団であることは間違いありません」(スポーツ紙デスク)

ただ、もちろん復活を願う声も多い。右肩の故障で結局、ソフトバンクではまったく働けなかったものの、昨年3月のオープン戦では変化球主体の投球で広島打線を7回無安打と完璧に封じ込め、技巧派に転身した“ニュー松坂”の姿も披露しているのだ。

松坂の西武時代、ライバル近鉄のヘッドコーチとしてその投球を見続けた野球評論家の伊勢孝夫氏は、「肩の故障が完治し、球速が最低でも140キロ出るなら」という条件つきでこう語る。

「投打に突出した選手が多いパ・リーグでは厳しかったかもしれない。でも、それと比べれば打者が小粒なセ・リーグでの再出発というのは好材料だと思います」

では、具体的にはどこが復活のポイントになるのか。伊勢氏は明快にこう語る。

「右打者にとっての内角、左打者では外角になるコース(投手から見てホームベースの右側)に、どれだけ意図した投球ができるか。それが最大のカギです」

かつて松坂の決め球といえばその逆側、右打者の外角低めに決まる鋭いスライダーだった。しかし“ニュー松坂”にとっては、右打者の内角をツーシームでえぐれるかどうかが勝負だという。

「以前のような球威を持たない松坂が、スライダー系の球を軸にすることは容易に想像できる。打者も当然、外角に逃げるスライダーを狙ってくる。投球の幅を広げるには、内角をえぐる一球が絶対に必要なんです」

左打者に対してはどうなのか?

では、DeNA・筒香(つつごう)のような左打者に対してはどうか。

「こちらはスライダー。それも外角のボールゾーンからベース方向に曲げる、元広島の黒田博樹が武器にした『バックドア』ですね。ただし今の松坂の球威では、ストライクゾーンに入ったら打たれると思ったほうがいい。キモになる球はボールゾーンからベース方向にわずかに変化し、しかし際どくボールゾーンのままというスライダーでしょう。左打者の心理として、外から曲がってくるスライダーは『いける!』と思いがちですが、ボールゾーンなら芯を食うことはないですから」

ただし、松坂はもともと緻密なコントロールを駆使する投手ではなかった。伊勢氏はこうつけ加える。

「投球すべてに完璧な制球を求める必要はない。かわすというより、むしろ荒れ球を生かして攻めるイメージです。ポイントは、1ボール0ストライクや2ボール1ストライクといった打者が打ち気になるカウントでの失投を防ぐこと。少々のボール球でもつい手を出しがちなカウントで、得意のスライダーを曲げられれば、案外通用する投球ができると思いますよ」

目指すは“荒れ気味の黒田”。野球人生をかけたシーズンは、2月1日のキャンプインから始まる。