サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第32回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、日本代表監督。これまで、ワールドカップ出場時の監督はほとんどが外国人だったが、今後もその流れは続けるべきなのか…。日本らしいサッカーとは?という命題を問われ続けているが、その実現のためにどう考えるべきかを語った。
******
少し気の早い話だけれど、6月から始まるW杯ロシア大会が終わった後の日本代表について考えてみたい。ハリルホジッチ監督の契約はW杯までで、過去の日本サッカー協会の事例を振り返っても、契約延長の可能性はないだろう。
では、次の日本代表はどういった方に任せるべきか。協会がどう考えているかわからないが、私の考えでは外国人監督を招聘する必要はもうないと思っている。
日本人らしさをパスサッカーで生かそうとザッケローニさんを迎えて臨んだ2014年のW杯ブラジル大会、本番直前のトレーニングマッチでいい試合をしたものの、世界トップレベルが本気になる本番では通用せずにグループリーグで敗退した。
だけど、もちろんザッケローニさんのサッカーがすべてダメだったわけではない。あのパスサッカーにフィジカルの強さや縦への速さをうまく加味することができれば、さらに成長できると踏んで協会はアギーレさんを監督に迎えた。だけど、リーガ・エスパニョーラ時代の八百長疑惑などがあって辞任、監督交代劇となった。
ハリルホジッチ監督になってからの日本代表は、パスを中盤でつなぐスタイルを捨て、縦に縦にというシンプルなスタイルになっていった。
そのスタイルも決してダメということではない。ただ、それを主体にして戦うのは南米やアフリカ、ヨーロッパと比べてフィジカル面で劣る日本人にとってはハードルが高い。その差を埋める努力は必要だけれど、そこ以外の日本人らしい特長を生かさないことには、世界と戦うのは現実的には厳しいと私は考える。
日本代表監督を振り返ると、92年にハンス・オフトが初めて外国人として監督に就任してからはファルカン、加茂周さん、岡田武史さん、フィリップ・トルシエ、ジーコ、イビチャ・オシム、もう一度岡田さんが就任して、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチという系譜になる。
それぞれの監督は素晴らしくても、残念なことにその時々で日本代表が志向するサッカーに一貫性がなく、前任者の時代に築いたものを残しながら、新たなものを積み上げることはあまりできなかった。こうした結果を招いたのは、監督を決めている日本サッカー協会に責任の一端があるといえる。
外国人が日本代表監督に就く時は、もちろん長期的なビジョンの下に立って日本サッカーを育てて発展させることも考えるだろうが、同時に、プロとして自らのキャリアを磨く機会でもある。こうした考え方はプロフェッショナルの監督としては当然で、彼らを責めるのはお門違い。だからこそ、長い目で日本スタイルのサッカーを構築していきたいのなら、外国人監督に教えを請う時代は終わりにしたほうがいい。
確かに、外国人監督に任せることで成果を出したこともある。例えば、本来は攻撃を学ぶために連れてきたトルシエ監督の下で構築したフラット3の守備は素晴らしかった。かつてマリノスやレイソルでも活躍し、98年、02年のW杯に出場した元韓国代表のユ・サンチョルは「トルシエ時代の日本代表が一番強かった」と言っていたほどだ。
継続性がなくなるのは当然のこと
フラット3はラインを高くして、組織的に相手のボールホルダーにプレッシャーをかけながら、オフサイドトラップで相手のストロングポイントを消していき、ボールを奪えばワンタッチ、2タッチで逆サイドにボールを振っていく。個々の運動量がそれほど多くならずに済むという利点もあった。
その中央を担った宮本恒靖は176cmとCBとしては小柄だったけれど、サイズのあるCBがなかなか育たない土壌にあっては、ある意味で“日本らしいスタイル”でもあった。だから、あのコンセプトを継続していればよかったのでは、と思うよね。
当時よりは身長180cm以上のCBが増えているし、あのままで無理があるなら中盤からの組織的なプレッシャーはそのままに、4バックに変えて4−5−1でやれば、悪くないサッカーになっていたと思うし、相手や試合展開によっては3バックと4バックの使い分けだってできたはずだ。
でも、それが実現できなかったのは、代表監督をW杯が終わるたびに海外から連れてくるから。それまで築いてきたものと全く理論の異なる人が新たに一から手をつければ、継続性がなくなるのも当然のことだろう。
だからこそ、W杯ロシア大会以降に代表を率いるのは、こうした日本サッカーが歩んできた流れや、育成年代で日本サッカーがやっているスタイルをきちんと理解している人にやってもらいたいんだ。
もちろん、それを理解できているなら外国人監督でも構わない。長くJリーグで指揮しているミハイロ・ペトロビッチ監督やネルシーニョ監督なら、そうした事情もわかっているはずだからね。ただ、やっぱり圧倒的に日本人監督のほうが気質や特長を理解しているはずだよね。
選手のことだって、日本人監督のほうがより多くを知っているのは間違いない。例えば、ハリルホジッチ監督はCBで吉田麻也とコンビを組むパートナーに昌子源や槙野智章、三浦弦太、植田直通といった選手たちを試しているけれど、私だったら鈴木大輔を試す。
鈴木は16年からリーガ・エスパニョーラ2部のタラゴナでプレーしているけれど、吉田とはロンドン五輪でコンビを組んでいるし、彼なら試合に起用しても、なんの問題なくプレーできるレベルにある。
ハリルホジッチ監督は鈴木大輔の情報は持っていると思うけど、実際にプレーを観たことがないから招集しないのかもしれないし、彼の求めるサッカーに合わないと判断しているのかもしれない。確かに、どんな選手を起用するかは監督が決めることではあるんだけど、どれだけ選手の特長をちゃんと知って、手元に置いて見た上で判断してもらってるのかなと思う。
日本サッカーは発展して競技人口も増えたとはいえ、世界のトップで通用する才能ある選手はまだまだ限られている。そうした人材を無駄にしないためにも、やっぱり次の監督は日本人選手のことをプレー面だけではなく気質からもわかる人に任せることができたら、日本サッカーはまた一歩前進できるはずだ。
(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。