実力を評価された自然な形での移籍とは違うと語るセルジオ越後氏。

前代未聞の集団移籍だ。サウジアラビアサッカー連盟が、自国の9選手をスペインリーグ1部、2部のクラブにレンタル移籍することでスペインサッカー連盟と合意したと発表した。

1部リーグには3選手が加入(所属先はビジャレアル、レガネス、レバンテ)。昨年9月のW杯最終予選最終節の日本戦で決勝点を挙げたアルムワラドなど、いずれもロシアW杯出場の可能性がある現役の代表選手だ。そのほか2部リーグのクラブや1部のクラブの下部組織などに計6選手が加入し、選手のレンタル料と給与はすべてサウジアラビア側が負担するそうだ。

スペイン側の狙いはわかりやすい。おカネしかない。こんな強引な移籍を受け入れたのだから、相当な金額を積まれたんじゃないかな。今のスペインリーグには、レアル・マドリードやバルセロナなど一部のビッグクラブを除けば財政的に苦しいチームが多い。そういうチームにとってはなんのリスクもない"おいしい"話だ。

一方、サウジ側の狙いは、ロシアW杯に向けた代表チームの強化だというけど、その効果は疑問だね。半年にも満たない期間で強化につながるとは思えない。サッカーはもちろんのこと、サウジとスペインでは文化や生活も大きく異なる。しかもシーズン後半からの合流でポジション争いも大変だし、環境に慣れようとしている間にロシアW杯を迎えてしまうんじゃないかな。代表にとっては、むしろマイナスの影響が出ると思う。

もちろん、そうしたリスクはすべての移籍に伴うものだよ。でも、今回の移籍は現場の監督やスタッフに実力を評価されて実現したものではない。だから、試合に出られるかどうかは未知数。むしろ可能性は低いだろう。

もし金銭的なメリットを受けるクラブのオーナーが、サウジの選手を試合に出すよう監督に指示したとしても、サポーターが向ける視線はほかの選手に対してよりも厳しくなる。水準に達していなければ猛烈な批判を受けるだろう。チームメイトだって、自分よりも明らかにヘタクソな選手にポジションを奪われたら不満に思う。「おかしい」と声を上げて、メディアもそれを取り上げ、叩くだろう。そんな状況でプレーするのは大変だよ。

今回の集団移籍は、実力を評価された自然な形での移籍とは違う

かつて1992年から98年にかけて、中国がユース世代の選手たちをまとめてブラジルに長期留学をさせていたことがあった。その結果、A代表に選ばれた選手も出てきたけど、代表チームの強さは特に変わらなかった。中国国内でも失敗だったといわれている。

また、選手個人でいえば、2003年にイタリアのペルージャ(当時セリエA)に、リビアの指導者であったカダフィ大佐の息子が在籍したことがあった。多額の"持参金"をバックに、シーズン1試合だけプレー機会をもらえるという"トンデモ契約"を結び、ユベントス戦で途中出場し話題になった。彼もピッチ上では何もインパクトを残せなかったね。

今回の集団移籍は、実力を評価された自然な形での移籍とは違う。僕に言わせれば、移籍ではなく留学。いかにもアジアっぽいというか、プライドはないのだろうか。

選手は試合に出てなんぼ。いくらレベルの高いチームにいても、練習だけで成長できると考えているのなら大間違い。こういう強化のやり方が将来、日本にとって脅威になるとも思わないよ。

(構成/渡辺達也)