今年も新日本プロレスの“ルチャの祭典”FANTASTICA MANIAが開催された(1月12~22日)。
メキシコCMLLから選手を招聘し本場のルチャが観られるとあって、年々人気は加熱、後楽園ホール大会はチケット入手が困難なほど。8度目の開催となる今年は19選手が飛来と過去最大! その中にはなんと実の兄弟が4組もおり、史上初の「兄弟タッグトーナメント」も実現した。
中でも要チェックなのが、ルード(悪役)ユニットとしてメキシコで大暴れするウルティモ・ゲレーロ、グラン・ゲレーロの20歳差という兄弟。兄は説得力ありすぎの豪快技で年間チャンピオンに2度も輝くトップ中のトップ。弟はデビュー当初から既にダンプカー級の超絶ボディで、キャリア5年目ながら因縁の相手ニエブラ・ロハをマスクを賭けて打ち負かす活躍ぶりだ。
日本での人気も高く、リングに上がれば両手を高く上げるお馴染みのポーズで客席が波打つほど。その人気の秘密は? 新日本参戦はメキシコでどんな意味を持つのか? ルチャリブレ30年の変遷とは?
ゲレーロ兄弟に直撃したところ、リング上の激しさからは思いもよらない静かな語り口で切々とお話しくださったのであった…!
* * *
―試合前の貴重な時間をありがとうございます! では早速、初めて新日本プロレスからオファーがきた時の気持ちは?
ウルティモ・ゲレーロ(UG) 非常に光栄だったよ! 初めて参戦したのは2003年、その後は2010年の東京ドーム、そしてこのFANTASTICA MANIAには5年連続で呼んでもらえている。日本の皆さんに私の戦いをお見せできるのは非常に嬉しい!
グラン・ゲレーロ(GG) 僕も同じく光栄です。初来日は2015年だったのですが、そこからプロのルチャドールとしてのキャリアが始まったようなものなので。あの時から経験も積んで強くなった姿を見せられると思うし、アニベルサリオ(CMLL最大の周年興行)で戦ったニエブラ・ロハとメインイベントで再戦できたのも燃えました!
―FANTASTICA~は8年連続開催の人気です。その魅力はなんだと思いますか? 日本でルチャリブレが観られる機会は非常にレアだと思うのですが。
UG そう、毎年多くのメキシコ人選手が来るからメキシコのアレナ・メヒコでやるような試合が観られるし、雰囲気も楽しめるよ。
―新日本に参戦することは、メキシコではどんな意味を持つのでしょう?
UG 新日本は日本で一番大きな団体としてメキシコでも有名だ。そこに参戦することはもちろん栄誉なことだよ。
GG 特に僕のような若手にとって、日本で一番の団体に出たということは戻ってからのキャリアにかなりの価値を与えるんです。今回、このツアーに参加できたことで認知度・評価をさらに上げられると思います!
―“日本帰りは出世する”とも言われていますよね。注目している新日本プロレスの選手はいますか?
UG もちろん。オカダ(・カズチカ)選手はウルティモ・ドラゴンのジムにいた頃によく戦ったものだ。まだ少年の面影がある頃からよく知っているよ。内藤(哲也)選手、(高橋)裕二郎選手のほか、もう15年ほど前だが棚橋(弘至)選手、中邑(真輔)選手ともたくさん試合をしたし、メキシコでも注目度が高い(獣神サンダー・)ライガー選手とシングルマッチも経験した。
当時は私自身もキャリアの階段を登っている最中だったから、彼らとの経験はすごくプラスになった。それもあって新日本の選手は今でも尊敬しているよ。
「試合は一緒だが、違うといえば観衆だね(笑)」
―日本の試合ではメキシコとの違いを感じますか?
UG 試合はほとんど一緒だが、違うといえば観衆だね。メキシコと違ってかなり真剣に観戦する。自分の呼吸だけが聞こえるぐらい静かにね(笑)。メキシコでも重要な試合では観衆もシリアスになるが、普段はそれはもう賑(にぎ)やかに騒ぐからね! そんな感覚で来るものだから初来日の選手はやはり驚くようで、ラ・ソンブラなんかも「お客さんが静まり返ってたけど、何かマズいことした!?」なんて言っていたね(笑)。
―一挙手一投足も見逃すまいと息を呑んで集中していますから! そんな静けさの中ではやりにくいですか?
UG いやいや、戸惑うのは最初だけで、それが日本の文化なんだとすぐにわかる。私自身も日本での試合はたくさん経験してきたし、今はむしろやりやすいぐらいだよ。
―とはいえ、おふたりのゲレーロスは日本でも認知度・人気が高く、皆応援しますよね。
UG うん。だが、なぜだろうね?
―入場がQUEENの『ROCK YOU』という超有名曲で盛り上がる上、試合は連携技も素晴らしく、特にコーナーポスト最上段からの必殺技ゲレーロスペシャルは明らかに受け身の取りづらい恐ろしい技で、さらにその分厚い筋肉で見た目から強さに説得力があるからではないでしょうか。
UG ああ、キミはオタクなんだな(笑)。
―(笑)日本の観衆の前での試合が、自身の経験にプラスになっていますか?
GG 集中して観てくれるので嬉しいし、大きな技を出したり叫んだりすれば、すぐ反応してくれるので楽しんでもらえていると実感できます。そして何より言えるのは、この経験がメキシコでの試合で活きてくることです。
UG メキシコの観衆もベルトやマスクを賭ける試合なんかは静まり返るような時はあるからね。日本で試合をした経験があれば、シリアスな観衆が求めるものを見せられるということだ。
ルチャは、負けても勝ちに等しい試合もある
―1月19日のグラン・ゲレーロVSニエブラ・ロハ戦は、まさにそんなシリアスな対戦の再現となったわけですが、残念ながら敗れてしまい…。試合を終えていかがですか?
GG 負けたのは残念だけど、全体的に見るといい攻防が見せられたと思う。僕らはふたりともいい選手だと思うし、精一杯やった結果ですから。アニベルサリオでは僕が勝って彼のマスクを剥ぐという結果だったし、今回は負けたけどそれで自分の課題が見えたところもあります。練習を重ねていれば、きっとリベンジする機会もあるはずです。
UG 弟はいつも頑張っているよ。ロハ戦も試合内容はよかった。ルチャの試合というものは、負けはしても内容によっては勝ちに等しい場合もあるからね。今回、弟は持っているものは出せたと思うし、私たち兄弟タッグの有能さをタッグトーナメントで証明するいい布石になったと思う。
―その史上初の「兄弟タッグトーナメント」ですが、こういった大会はメキシコではよく開催されるのですか?
UG いやいや、初めてだよ、こういう兄弟タッグだけのトーナメントっていうものは。4組も兄弟でタッグが組めたのは驚きだし、私の記憶にある限り開かれたことはない。だからすごく燃えているね。しかも初戦の相手ニエブラ・ロハは私の弟とも因縁がある。昨日の試合で私にも怒りが溜まっているからな! この煮えくり返る怒りをぶつけて勝利を掴み、優勝して国に帰るつもりだ!
GG 兄の持つダントツの経験はトーナメントを勝ち上がるためにかなり強力な要素になると思いますし、最高のパートナーです。僕ら兄弟で日本初の「兄弟タッグトーナメント」覇者になってメキシコに帰るつもりです!
* * *
この日の夜、勝利して決勝に駒を進めたゲレーロスは、翌日のミスティコ&ドラゴン・リー兄弟との激戦も制し、見事、史上初の兄弟タッグトーナメント初代優勝者となった。
◆後編⇒「昔よりずっと危険になった」プロレスで“ルチャの世界”を28年生き抜く大物、ウルティモ・ゲレーロを独占直撃!
(取材・文・撮影/明知真理子 通訳/鈴木つどい)
●ウルティモ・ゲレーロ 173cm 93kg。世界最古でメキシコ最大の団体CMLLの重鎮ルード(悪役)。これまでの獲得タイトルは数知れず。キャリア28年のベテランながら最強の名をほしいままにしている。
●グラン・ゲレーロ 175cm 95kg。2013年デビューの、ウルティモ・ゲレーロの20歳差の実弟。兄との息の合ったタッグプレー、確かな技術を感じさせる巧みな試合運びで観客を沸かせている。