昨シーズンのJリーグ王者、川崎の今季戦力について語った宮澤ミシェル氏 昨シーズンのJリーグ王者、川崎の今季戦力について語った宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第34回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、昨シーズン初めてリーグ制覇し、今シーズンは連覇を狙う川崎フロンターレ。攻撃陣に豊富なタレントをそろえるチームは、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)など、リーグ戦以外のタイトル獲得も目指して補強を敢行。今季も優勝争いの先頭を走ると目されているが…。

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今シーズンのJ1リーグは川崎フロンターレが中心になって展開していくだろう。天皇杯王者とJ1リーグ優勝チームが激突するゼロックス・スーパーカップでセレッソ大阪に3対2で敗れ、ACLのグループリーグ初戦も落としたとはいえ、その力はやはり国内トップクラスだ。

シルバーコレクターと言われていた川崎が、去年ようやく攻撃的なパスサッカーで得点を奪って勝ち切りJ1で優勝した。そこで掴んだ自信は大きいはず。今年、それをどう継続しパワーアップするかが連覇のカギになるだろう。

パワーアップに関しては、大久保嘉人がFC東京から復帰し、横浜F・マリノスから齋藤学を獲得した。鹿島からFW赤崎秀平も獲得しているし、攻撃陣に関しては十分な戦力を揃えたといえる。この補強から、川崎のリーグ戦、カップ戦、ACLの3冠を狙う本気度が伝わってくるね。

中盤は三好康児が札幌へ、板倉滉(こう)がベガルタ仙台へレンタル移籍したけれど、これは試合経験を積ませる狙いがあるだろう。近い将来、彼らは川崎に戻ってきて主力になると思う。他にも森本貴幸、ハイネル、狩野健太、大塚翔平といった選手がチームを去ったけれど、クラブを出た選手よりも、獲得した選手のほうがレベルは高いと言っていいんじゃないかな。

ただ、これで万全かといえば、3冠を狙うためには、さらにFWを獲得したいところではあるよね。FW陣は昨シーズン、得点王とMVPに輝いた小林悠が中央に構えていて、そのバックアップの大久保は35歳のベテラン。赤崎が川崎のサッカーにすぐにフィットできるかどうかは未知数だ。できれば、もう1枚、強烈な外国人がいれば、故障者が出たり、小林が出場停止になったりしても安泰というところだろう。

トップ下には、今年も中村憲剛が健在。ボランチにはエドゥアルド・ネットと大島僚太が入るけれど、中村が抜けた場合には森谷賢太郎がボランチに入って、大島がトップ下に入ることもできる。

または、大久保をトップ下で起用する手もあるよね。去年まで在籍したFC東京ではトップ下は厳しかったかもしれないけれど、川崎ならパスサッカーの連動と周囲のサポートがあるから、パスをはたいて、そのままゴール前に走り込んで得点を狙うことだってできる。そういう周囲の“お膳立て”が充実しているのが、川崎のスタイルだからね。

不安要素として手薄なのは…

前線に関しては、ターンオーバーでリーグ戦とACLやカップ戦に臨んでいくのだろうけど、先発が右に家長昭博、左に大久保嘉人で、後半から阿部浩之や斎藤が交代で出場してきたら、相手にとっては脅威。ケガをしていた齋藤は順調に回復しているらしいから、それを想像するだけでも楽しくなってくるよ。

ただし、不安要素として、DFの選手層が手薄なのは否めない。CBは奈良竜樹、谷口彰悟、エドゥアルドの3人で回していくんだろうけど、故障者が出たら苦しくなるはずだ。それでも、チョン・ソンリョンというすばらしいGKがいるから、そこは心強いね。

3冠を狙う川崎に是が非でも獲ってもらいたいのがACLのタイトルだ。去年は浦和レッズに決勝トーナメント準決勝でまさかの逆転負けを喫して、しかもその浦和がACLのタイトルを獲得した。川崎にしてみると、相当悔しかったんじゃないかな。

去年の浦和は守りを固めてカウンターというスタイルでACL決勝を制した。今度は、自分たちが主導権を握るスタイルのサッカーをする川崎にアジアの頂点に立ってもらいたいよね。ひとりのサッカー人としては、日本らしさが詰まった精緻な連動のあるパスサッカーで、日本のクラブがアジアを制覇する姿を見たいんだ。

川崎のシーズン序盤はACLのグループリーグとJリーグ開幕で日程的にはキツイけれど、リーグ戦は最初の5試合を乗り切れれば、そこからリズムに乗って勝ち点を積み上げられるだけの力がある。だからこそ、開幕から3月末まで川崎がどんな戦いをするのか注目したい。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。