W杯取材の思い出を語った宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第36回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、W杯の現地取材について。過去、1998年のフランス大会から続けている中、前回2014年ブラジル大会で取材に向かった際のエピソードを語ってくれた。

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今年6月から始まるW杯ロシア大会は、まだ具体的に決まっていないけれど、おそらくグループリーグ期間中は現地で取材をすることになる予定だ。

仕事で行く場合、スタッフが準備してくれるイメージがあるかもしれないけれど、常にそうとは限らない。前回の2014年W杯ブラジル大会の時は、往路は私ひとりで日本からブラジルまで移動した。だから、自分で旅行代理店と打ち合わせをして行ったんだけど、これが珍道中の始まりだった。

ブラジルに行くにはアメリカで乗り継ぐ方法と、ドバイ空港経由の2通りあるんだけど、往路はドバイ経由で向かった。理由はトランジット(乗り換え)がアメリカ経由より4時間くらい短くて済むからだ。

ただ、ドバイに行ったことはあったけど、2013年に第3ターミナルがオープンしてからの新しいドバイ国際空港を利用するのは初めてだった。空港はさらに大きくなっていて迷子になってしまうかもしれないから、事前に空港内の地図をもらって、トランジットのゲートまでのルートを書いてもらったんだ。

代理店の説明では「飛行機を降りて真っ直ぐ進むとイミグレーション(出入国管理)があるので、1回出てください」とのことだった。「えっ? トランジットなのにイミグレーション出るの?」と疑問に思って「その地図は古いやつじゃない?」と確認したら「大丈夫です!」と。

あまりに自信満々に言うから、疑心暗鬼ながらも現地に出発した。また、ブラジルで使う携帯電話もその旅行代理店が手配してくれていたから受け取ってブラジルに向かった。

ドバイ国際空港に到着して手荷物検査を受け、書いてもらった地図の通りに進んだら、そこには壁しかない。一面、壁。それで近くにあったエスカレーターに乗ったら、ものすごく広いショッピングモールに着いた。「ここはなんだ?」と不安になりながら、周囲をよく観察したら、ショッピングモールの間に搭乗ゲートがある。「これはすごい」と思いながら、自分の乗る搭乗便のゲート番号を探しても全然ない。空港がデカイから端から端まで歩くのだけでもウンザリするくらいの距離だった。

携帯電話を使おうと思ったら…

結局、見つからないのでエスカレーターを降りて元の場所に戻り、近くにいた人に訊ねたところ、「電車に乗って移動する」と教えられた。空港内で電車に乗ってターミナルを移動することはあるけれど、旅行代理店からはそんなことは聞いてないなと思いながら、言われた通りに電車に乗ったわけだ。

それで、電車が次のターミナルに到着したら、今度は大きなエレベーターに乗り換えて、どうにかこうにか自分が乗る飛行機の搭乗ゲートにたどり着いた…。ドバイのあの広大な空港は、日本の空港しか知らなかったら、想像できないくらいのレベルだ。

やっと搭乗口に到着して落ち着いてきたら、急に腹立たしくなってきてね。何しろ、旅行代理店から出発前に伝えられていたこととあまりに違うことばかりだったから。文句のひとつも言ってやろうと、日本で渡してもらった携帯電話を使おうと思ったら、それが全然つながらない。いろいろと準備に時間を割いたのにホント、大変な目に遭った。

それでも、ブラジルW杯の帰りは順調だった。TVの中継クルーと一緒にアメリカ経由で帰国したけれど、長期間の取材と長距離移動で疲労がたまっているからアトランタに1泊。乗り継ぎでひと休みしてから、無事、帰国便に搭乗できた。

今回のW杯ロシア大会に関しては、飛行機についても現地での食事についても、なんの不安もない。なぜなら、去年のコンフェデレーションズカップですでに現地取材に行っているからね。経験があることは大きい。世界最大規模のスポーツの祭典に向けての準備はできているので、しっかり取材してきたいと思っているよ。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。