名実ともに“球界ナンバーワン左腕”に成長した菊池雄星。「小学生のときから著書を読み、憧れの大投手だった」と語る“レジェンド左腕”江夏豊氏との初対談が、『週刊プレイボーイ』本誌の「江夏 豊のアウトロー野球論」にて実現。
コントロールの極意、エースとしての自覚、後輩・大谷翔平やメジャーへの思いなどを語った!
■キャッチボールで一球ごとに“説明”
江夏 初めてだよな、あなたと面と向かって話すのは。
菊池 はい! よろしくお願いします。
江夏 じゃあ、まずは今現在の調子から聞かせてもらおう。今日、ブルペンを見させてもらったけど、球数は60球ぐらいだったか?
菊池 66球です。
江夏 自分が見た感じではすごくよかったんだけど、どうだ? キャンプが始まって10日ほどたった現時点では。
菊池 順調にきてます。
江夏 順調だと思うよ。きっちり指先にボールが引っかかって、キレのある真っすぐを低め低めに投げていて。かなり放り込んできたなという印象を持ったよ。でも、今年は例年以上に宮崎も寒いし、ここ南郷(なんごう)にしたって寒いだろ?
菊池 ええ。今日はでも、あったかいぐらいですね。
江夏 これであったかい?
菊池 今日は10℃を超えてますし。昨日まで最高でも6℃、7℃だったので。
江夏 だからね、その寒さのなかであれだけいいボールを投げている姿を見れば、やっぱり「おっ」となるよ。あらためて、去年の16勝という数字が自信になったのかなと思う。
菊池 そうですね。それ以前は本当に勢いだけで投げていて、「どこにいくかわかんないけど、とにかく腕を振れ」みたいな感じだったんですけど、去年からは少し自分でコントロールできるようになったんです。たとえ一球抜けたりしても、次の球で修正できるようになりました。
一球一球、説明できるようにしようと
江夏 コントロールできるようになったというのは、何かきっかけがあった?
菊池 一昨年のオフ、キャッチボールをしていて、「なぜそこにボールがいったのか」ということを一球ごとに説明しようと思ったのがきっかけです。例えば、「今ど真ん中にいいボールがいったのはなぜか? こうこうこうだったからここにいきました」と僕がトレーナーさんに説明する。次の球が抜けたら、なんで抜けたのかをまた僕が説明する。要は、ボールがそこにいった理由を自分で説明できるようにする、という練習を繰り返したんです。
江夏 そういう練習方法は誰かのアドバイス?
菊池 自分で考えました。
江夏 ほおー。
菊池 やっぱり、がむしゃらに投げていても、今日はたまたまよかった、今日はたまたま悪かった、というピッチャーになってしまう。それでは貯金がつくれない、勝ち越せないピッチャーなので、一球一球、説明できるようにしようと。実際、その練習をしてからコントロールがまとまってきたと思います。
江夏 何がそこまで自分で考えるきっかけになったんだろう?
菊池 キャッチャーの炭谷さんから「おまえはただ能力だけでやってる」と、ずっと注意されてきたんです。「何も考えていない。持って生まれたものだけでやっているから考えなさい」と言われてきて……。
江夏 考えなさい、か。しんどいよなあ、考えるっちゅうことはなあ。
菊池 そうですね。
江夏 例えば、あなたが高校時代、ピッチャーとして考えたことはあった?
菊池 正直……なかったですね(笑)。
江夏 はっはっは(笑)。
菊池 高校生相手だったら、少しぐらい甘い球を投げても打たれなかったので。
大谷翔平に先を越された?
■母校・花巻東高校、後輩・大谷翔平、そしてメジャーリーグ
江夏 それにしても、高校時代のあなたの活躍はすごかった。無名だった花巻東高校のエースとして甲子園で旋風を巻き起こし、全国に知られるようになったんだから。
菊池 岩手県の選手だけで頑張りましたね。
江夏 そう! それがまたいいんだよ。強くなりたかったら他県から選手を集めるものだけど、それをしないんだから。あなたはなんで花巻東に入ったの?
菊池 やっぱり岩手県の高校で、岩手県の選手だけで勝ちたいというところが大きかったですね。近所のメンバーで、そのまま小・中・高と一緒の仲間でやりたいっていう気持ちが強かったんです。それともうひとつは、佐々木監督。この方の下で野球をやってみたいと思いました。
江夏 自分は佐々木監督にお会いしたことはないけれど、画面で見ているだけで、すごく魅力のある方だな、ということが伝わってくるよ。
菊池 今思い返しても、監督のご指導によって、最先端のいいトレーニングができたかなと思いますね。
江夏 それであなたが卒業した後、また大谷翔平というすごいヤツが入ってくるんだよな。彼も高校野球で活躍してプロに入ったけど、もう向こうに行ってしまったわけだ。あなたとしてはどうだ? 後輩に先を越されたという感じかな?
菊池 いや(笑)。もう彼は順調に1年目から活躍して、トントン拍子でしたから。当然、本人にはいろんな苦労もあったと思いますが、5年目でメジャーへ行くというのはすごいことです。
江夏 まして、過去の日本のプロ野球界ではいない“二刀流”だからな。
菊池 僕らにはまねできないですからね。
江夏 普通の野球選手じゃあ、ちょっと無理だね。
菊池 アメリカでもぜひ“二刀流”でやっているところを見てみたいなと思います。
江夏 まあ、それで活躍できれば素晴らしいことだよな。あなたも内心はあるだろ? いつかはメジャーへ行ってみたい?
菊池 そうですねえ、チャレンジはしてみたいです。
江夏 そうか。やっぱり、そういう夢は持たないとな。あなたの場合は決してプロ1年目からトントン拍子にきたんじゃない。なかなか勝てない時期があって、やっと昨年、夢を見られるほどの投手になれたんだから。
★後編⇒江夏豊に語った菊池雄星、エースの自覚「『雄星が投げる試合は中継ぎ、抑えを休ませる日』と言われたい」
(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)
●菊池雄星(きくち・ゆうせい) 1991年生まれ、岩手県出身。花巻東高校では3度甲子園に出場。1年夏に1回戦敗退、3年春に準優勝、3年夏に準決勝敗退。2010年、ドラフト1位で西武ライオンズに入団。2011年6月30日のオリックス戦でプロ初勝利。2013年4月13日の楽天戦で初完封を達成し、オールスターに初選出。2016年には初めて開幕投手を務め、自身初の2桁勝利を達成。2017年は1.97で最優秀防御率、16勝で最多勝を獲得。奪三振は1位の楽天・則本昂大と5個差のリーグ2位だった
●江夏豊(えなつ・ゆたか) 1948年生まれ、兵庫県出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ。『週刊プレイボーイ』本誌で「江夏 豊のアウトロー野球論」を連載中