リーガ・エスパニョーラでプレーを続ける乾貴士と柴崎岳について期待を語る宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第39回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、リーガ・エスパニョーラ(リーガ)で力をつけているふたりの日本人選手、乾貴士と柴崎岳について。6月のW杯に向けて、日本代表の最終メンバー入りを狙うふたりの現在とその魅力について語る。

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日本代表はベルギー遠征でまずマリ戦で1-1の引き分け。次のウクライナ戦に向けて心配な部分もあるけれど、個人的には代表復帰したヘタフェ所属の柴崎岳に期待している。そして、今回は代表に選ばれなかったけど、同じくリーガ・エスパニョーラのエイバルでプレーしている乾貴士もロシアで活躍してほしい注目の選手だ。

乾は今、1年ごとにクラブでの存在感が大きくなって、現地の中継で試合前にウォーミングアップしている乾の様子を必ず映すくらい。

エイバルは小さなクラブだけどパッションが高い。人口は約2万7千人でスタジアムの収容人数は6267人。そこでレアル・マドリードやバルセロナと戦っているんだ。現地に取材に行った時はなんだか胸が熱くなったね。

スタジアムは西が丘サッカー場よりも小さくて、現地での解説は大変だった。メインスタンドやバックスタンドに中継用のブースはなく、簡素な部屋が中継スペースだったけど、いざ中継を始めたら、解説の私のすぐ目の前を乾が走っていく。ピッチまでの距離が近すぎて、思わず笑ってしまった。

そんな小さな町のクラブが今季は10位前後で頑張っていて、その中心に乾がいる。来季も残留する方向で話を進めているようだけど、これはスゴイことで日本人選手がこれほどリーガで認められたのは乾が初めてと言ってもいいだろう。

城彰二がバリャドリード(2000年)、西澤明訓がエスパニョール(2000-01)に日本人選手で初めてリーガのクラブに移籍し、その後も大久保嘉人がマヨルカ(2005-06)、中村俊輔がエスパニョール(2009-10)、家長昭博がマヨルカ(2011-12)、ハーフナー・マイクがコルドバ(2014-15)、清武弘嗣がセビージャ(2016-17)でプレーした。

2部のセグンダでプレーした安永聡太郎や福田健二、指宿洋史なども含めて、実に多くの選手がスペインに挑戦したけれど、それほどの成功はできなくて、日本人選手にとってリーガは鬼門とされてきた。

その中で乾が成功できたのは、エイバルでメンディリバル監督と出会えたことが大きかった。メンディリバル監督は選手ひとりひとりの可能性を最大限に引き出して、組織として機能させるのがうまい。

ただ、乾は最初からコンスタントに試合に出られていたわけじゃない。言葉がわからない中で、監督から言われたことを一生懸命にやって信頼を積み上げてきた。日本では守備をあまりしなかったが、献身的に守備もするようになった。

今回は招集されなかったけれど、日本代表に選ばれるようになったのは、メンディリバル監督の下で身につけたものがあればこそ。W杯メンバー入りのために、スペインでアピールを続けてほしい。

エイバルでの乾は本当によく走る。逆サイドから攻められていたらピッチ中央まで絞って、そこから展開されて自分のサイドを相手が攻められたら自陣深い場所まで戻り、そこでボールを奪ったら前に出ていく。

メンディリバル監督は乾のことを「サボらないし、テクニックは言うことはない。あとはシュートをもっとエゴイスティックに打つように指導している」と高く評価していた。

リーガ・エスパニョーラが難しいワケ

エイバルに行く前にドイツでプレーしていたこともよかったのだろう。スペインよりもドイツのほうが体のサイズは大きくて、守備の時はガツガツくる。そこを経験してからスペインに渡ったから、フィジカル面での当たり負けはなかった。その上で、ボールを持ったら積極的に仕掛けていくことで評価を勝ち取った。

中村俊輔が以前、「スペインは大きくはないけど、みんなうまい」と言っていたけれど、日本人もうまさなら負けていない。だからこそ、リーガは難しい。彼らが持っていないものを武器にして評価を勝ちとらないといけないから。

乾にはドリブルという明確な武器があったのが大きかった。縦に抜け出してクロスを上げられるし、カットインしてシュートも打てる。サイドチェンジのロングパスを走りながらコントロールする。

その点で言うと、今回のベルギー遠征で日本代表に招集された柴崎はまだまだこれからで伸びしろだらけだ。去年までのセグンダ(2部)のレベルなら技術の高さはスペシャルな存在として認められ、ボールが集まってきた。でも、1部のヘタフェではチームで認められる前の状態。乾のようなわかりやすい武器がないだけにダイレクトパスやスルーパスで違いを見せたいところだ。

2月のバルセロナ戦では2回あったゴールチャンスでミス。あれをきっちりゴールにつなげて大きなインパクトを残せていたら、評価は一気に高まっていただけにもったいなかった。やはりバルセロナやレアル・マドリードを相手にして活躍したらインパクトはデカイ。実際、乾は昨季のバルセロナ戦での2ゴールで一気に認められた。

柴崎と乾がもうひとつステップアップするにはゴールを増やしたいところだ。きっと本人たちも意識していると思う。

リーガ・エスパニョーラには個が際立った選手が多いし、中堅から下位のクラブも魅力的でクラブごとの個性が全然違う。ラス・パルマスは攻撃一辺倒で守備はザル、ベティスとセビージャのダービーはスペインで最も過激。乾と柴崎がすごいリーグで頑張っているということをもっと多くの人に知ってほしいね。

スペインで研鑽を積むふたりが、ロシアW杯の舞台で力を発揮してくれることを願っている。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。