ツアー初優勝を飾り、笑顔を見せる大坂。5月末から行なわれる全仏オープンで、日本人初となるシングルスでのグランドスラム制覇を期待したい。

インディアンウェルズ(アメリカ)開催のBNPパリバ・オープンで、ツアー初優勝を手にした大坂なおみ。それがどれほどの快挙かピンとこない人もいるかもしれないが、この大会が“5番目のグランドスラム”と呼ばれていると言えばすごさが伝わるだろうか。あるいは、今大会で大坂が破った選手の顔ぶれを示すほうが手っ取り早いかもしれない。

初戦のマリア・シャラポワをはじめ、グランドスラムで優勝か準優勝を経験している選手を4人も撃破。世界ランキングを見ても、準々決勝で破ったカロリナ・プリスコバは同5位、準決勝で破ったシモナ・ハレプにいたっては同1位だ。そんな選手たちを圧倒した今の大坂には、決して大げさではなく、いつグランドスラムで優勝してもおかしくない力が備わっている。

ハイチ系アメリカ人の父親と日本人の母親を持つ大坂は、男子顔負けの高速サーブとパワフルなショットを武器に、これまでも多くのトップ選手を破ってきた。一方で、日によってプレーのばらつきが激しく、ひとつの試合の中でも突如として精神的に乱れることがあった。しかし、それは去年までの彼女。今大会の大坂は、2週間の長丁場で、計7試合を完璧に勝ちきったのである。

その覚醒は、なぜ起きたのか? もちろん人間的な成熟や経験など理由は多々あるが、最大の要因は、彼女を支える陣営にあるだろう。

今大会、大坂のファミリーボックスに座っていたのは、コーチのサーシャ・バジンにストレングス&コンディショニングコーチのアブドゥル・シラー、そしてトレーナーの茂木奈津子というスペシャリストばかり。しかもバジンとシラーは、過去に絶対女王セリーナ・ウィリアムズの下で働いていた“女王育成のレシピを知る者たち”である。セリーナは、大坂が幼少期から憧れ続けた女子テニス界のスーパースターでもあり、そのセリーナを育てた人たちの指導を受けることで気合いが入らないわけがない。

バジンが、昨年末にコーチに就任したときに真っ先に取り組んだのは、ネガティブになりやすい大坂のメンタリティを変えることだった。「セリーナのボールを8年間打ち返してきた僕が、キミのショットには力負けするよ!」と、時にはそんな“褒め上手っぷり”を発揮して、大坂に自信を植えつけた。

今大会から帯同したシラーは、大坂のパワーと、大会期間中にも向上していくフットワークに舌を巻く。それでも、敏捷(びんしょう)性やスタミナはまだまだ向上の余地があり、今後も伸ばしていく予定だ。同じく今大会から帯同した茂木は、試合や練習後のマッサージなどを入念に行ない、連日ベストな状態で大坂をコートに送り出した。

その茂木には、実はもうひとつ、“日本語の上達”という担当分野があるようだ。

「マッサージ中にはテニスのことだけでなく、『おなかすいた~』とか、そんなたわいない話も日本語でしてますよ」と茂木が言えば、大坂も「ナナ(茂木の愛称)のおかげで、日本語を話す機会が増えた」と明かす。

今大会では、残念ながら上達した日本語はお披露目されなかったが、「次ね!」と意欲は見せた大坂。そちらの成長も楽しみだ。

(取材・文/内田 暁 写真/ゲッティ イメージズ)