3月27日に行なわれたウクライナとの親善試合。ハリルホジッチ監督率いる日本は格上を相手に予想通り低調なパフォーマンスを見せ、1-2で敗戦を喫した。これでW杯予選後の成績は3勝2分け4敗。国内組だけでメンバーを編成した東アジアカップの成績を除けば、1勝2分け3敗となった。
この成績をどう見るかは別として、問題はここ8試合の内容にある。試合を重ねるごとにチーム状態は悪化の一途を辿(たど)り、もはやこの流れは止まりそうにない。とりわけ本番を約3ヵ月後に控えた今回のマリ戦とウクライナ戦ではハリルジャパンが抱える問題点がすべて浮き彫りになった格好だ。
ウクライナ戦では、攻撃に関していえば、前半のシュートは植田のロングシュート1本と同点ゴールとなった槙野のヘディングシュート、同じく槙野が前半終了間際に放ったシュートの計3本のみ。
両チームの選手が大幅に入れ替わり、1点をリードしたウクライナが逃げ切り態勢に入った試合終盤になり、ようやく日本のシュート数は増えたが、試合展開からして当然のこと。これをもって日本の攻撃が機能したとはとても言い難い。
もちろん、これはマリと比べてより組織的かつ球際でも圧倒したウクライナの守備力に起因していることも間違いない。しかし、その組織的守備に対して全く揺さぶりをかけることができず、相手の思うツボとなって簡単にボールを失ってしまった原因は、やはり日本側にあると見るべきだろう。
その原因のひとつは、連動性のない日本の守備にある。
サッカーは攻守が一体となったスポーツである以上、良い守備ができなければ良い攻撃はできない。逆に、良い攻撃ができている時は、おおよそ良い守備もできている。例えば、失点のリスクを負った攻撃的サッカーを貫く場合でも、前からプレスを仕掛けて高い位置でボールを奪えるかどうかがカギとなるわけで、そのスタイルで打ち合いを制することができれば、その守備も機能したということはできる。
ひるがえってハリルジャパンは、攻撃的サッカーを標榜していない。あくまでも弱者の側に立ち、ボールを奪われるリスクを減らすべく、奪ったボールを素早く縦に蹴って攻撃につなげるスタイルを目指している。
ところが、肝心のボールを奪うための守備戦術はいまだに構築できていない。相手選手を見てからボールを奪おうとするため、ポジショニングによってスペースを消して守るという意識がほとんど失われているのだ。
これはW杯予選中から見えた問題点だが、幸か不幸かアジアのチームと対峙した試合では、選手個々の能力で上回る、もしくは大した差がないためにその綻(ほころ)びがクローズアップされることはなかった。
ウクライナ戦で浮き上がった問題点
しかし、このウクライナ戦でははっきりとその問題が浮き上がった。選手個々はボールと人を追いかけて一生懸命守備をしているように見えるが、それによって各エリアにいくつものスペースが生まれてしまい、結果、相手に自由に縦パスやサイドチェンジを使われてしまう。連動性がないので、前線はもちろんダブルボランチでさえも守備のフィルターとしての役目は果たせていなかった。
各選手がバラバラに追いかけて守備をするため、日本がボールを回収した時の各選手のポジションも当然バラバラになる。よってパスコースは限られてしまい、相手に読まれたパスを簡単にインターセプトされ、焦りの中からミスパスが発生し、はたまた苦し紛れのクリアで簡単にボールを相手に渡してしまう。
これでは攻撃の糸口が見つかるわけもないし、ハリルジャパンの生命線でもある素早いカウンターアタックが仕掛けられるはずもない。1トップの杉本建勇が孤立し、FW陣が前半シュートゼロに終わったのも頷ける。
もちろん、指揮官が嘆くように選手個々のクオリティの問題も大きいだろう。しかし、その問題を「日本にはロナウドやメッシがいない」と言って終わらせるのはいかがなものか。本来は「個々のクオリティの差を補うためのチーム戦術」を構築し、「試合の流れを変える采配」によって勝利に導くのが監督の仕事であるはずだ。
最近のハリルホジッチを見ていると、自分の仕事ぶりを棚に上げ、不振の原因をすべて「駒不足」という問題だけに押しつけているようにしか見えない。そもそも、格下相手との試合が続いたW杯2次予選から頑(かたく)なにベテラン中心の固定メンバーで戦い続け、新しい選手の起用を放棄していたのはハリルホジッチ本人だったはず。
2次予選時に若手を積極的に起用し、最終予選で“ふるい”にかけ、予選突破後は土台ができ上がったチームの中で数人の新戦力のテストを刺激にしながらW杯本番を迎えるというのがチーム作りの王道だとすれば、ハリルホジッチのそれは真逆の方法だ。それが意図したものなのか、苦渋の選択なのかはわからないが、いずれにしても現状を見る限り、そのやり方は失敗したと言わざるを得ない。
本番を目前に控え、まさにボロボロの状態になったハリルジャパン。一部には2010年W杯南アフリカ大会前の状況に近いと見て、本番での奇跡に望みを託す向きもある。確かに、岡田武史監督率いる当時の日本代表もボロボロの状態で南アフリカに旅立った。そして、それまで積み上げたスタイルを本番直前に放棄し、180度異なる守備的サッカーに切り替えるという常識破りの賭けが、結果的に幸運にも奏功してグループリーグを突破することができた。
しかし、あの時と現在とでは明らかに異なる点がある。それは、現在のチームには戦術変更の元となる明確な戦術が存在していないという点だ。守備的サッカーに切り替えようにも元々が守備的なのでそれはできないし、ハリルホジッチの監督キャリアからして突然攻撃的サッカーに切り替えられるはずもない。
陥った負のスパイラルに出口は見当たらない。もはや現状を打破するためには、本番前にして監督交代に踏み切るしか方法はないだろう。完敗に終わったウクライナ戦を終え、「マリ戦よりもよかった」と強がる指揮官に、問題解決を託すのは無理がある。
このまま座して死を待つか、監督交代という勝負に出て活路を見出すか。日本サッカー協会が前者を選択するのだとしたら、いよいよロシアW杯の後に訪れる可能性の高い“日本サッカーの暗黒時代”の到来を覚悟しなければならないだろう。
(文/中山 淳 撮影/藤田真郷)