マリ戦はドロー、ウクライナ戦は敗れるという散々な結果に…。

これじゃロシアW杯で勝てるわけがない。今からでも監督を交代すべき…。

といった調子で、かつてない逆風真っただ中のハリルジャパン。でも、実はポジティブな要素もたくさんある!?

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みじめとしか言いようがない…。

ロシアW杯のグループリーグで対戦するセネガル、ポーランドを想定し、日本代表はマリとウクライナとの親善試合2連戦を行なった。

だがW杯に出場しない両国に対し、マリ戦は試合終了間際にようやく1-1に追いついてドロー、4日後のウクライナ戦は、一度は同点に追いつきながら1-2で敗れるという散々な結果に終わったのである。しかも日本は2試合とも、内容的にもほぼ相手に主導権を握られっぱなしだった。サッカージャーナリストの後藤健生(たけお)氏が語る。

「マリ戦は代表戦初出場やキャップ数の少ない選手を多く起用したため、チーム内にコンビネーションのかけらもなく、目も当てられない状態でした。ウクライナ戦ではさすがに中3日の間で守備組織を修正し、先発を経験豊富な選手中心で固めたので相手ボールをうまく奪えていた時間帯もありました。ですが、そこからシュートまで持ち込めず、逆にミスから相手にボールを渡してカウンターを食らっていました。

言い訳の材料があるマリ戦はまだ諦めがつくものの、ある程度やりたいことがやれたのに歯が立たなかったウクライナ戦は、選手たちのショックも大きいでしょうね」

事実、遠征中のチームの雰囲気は芳(かんば)しくなかったようだ。スポーツ紙の日本代表番記者A氏が言う。

「W杯出場が確実な主力組は、相変わらずの『縦に早く』はもちろん、『前線にロングボールを蹴れ』とまで試合中に指示を出し始めたハリルホジッチ監督の采配に不満を漏らす一方、当落線上や新顔の選手は23人の最終メンバー入りを意識して縮こまっているので、ベルギーでは全体がどんより暗いムードに包まれていました」

仮想敵にはこてんぱんにやられるわ、チームの士気は上がらないわで、一部メディアからはハリルホジッチ監督解任論が再び叫ばれている。W杯本戦まで残された時間はあとわずか。ハリルジャパンは、このまま自滅していくしかないのだろうか…。

いや、光明はある。まずひとつは、期待の新星の存在だ。2連戦を現地で取材したサッカージャーナリストの西部謙司氏が語る。

「両戦とも出場時間は短かったものの、マリ戦で同点ゴールを決めた初招集の中島翔哉(ポルティモネンセ)は、十分存在感を示しました。現代表が標榜している縦に早いサッカーは、必然的に前線の選手へのサポートが遅くなるので、アタッカーには個人の力でドリブル突破やシュートまで持っていく能力が求められます。その意味で中島が使えることがわかったのは、今回の遠征の収穫でしょう」

ハリルジャパンの光明とは!?

めったに選手をホメないハリルホジッチが、ウクライナ戦後に「中島はひとつの発見だった」と名指しで評価したことからも、いかにインパクトが強かったかがわかろうというものだ。

「何しろウクライナ戦では、わずか15分足らずの出場時間で、その試合で両チームの選手を通じて最多となる3本のシュートを打っていましたからね」(A氏)

若手ではないが、槙野智章(浦和)も評価を上げたひとり。

「2試合を通じて対人の強さを示しました。W杯本番で吉田麻也(サウサンプトン)とセンターバックを組むのは彼でしょうね。ポーランド戦では相手のエース、レバンドフスキに張りついて封じ込めるかも」(後藤氏)

そして今、最も懸念されているのは戦術やチームづくりといったハリルホジッチの指揮官としての力量なのだが、その点も決して悲観するには及ばないという。

「そもそも彼が気の毒なのは、2015年のアジア杯後に解任されたアギーレ前監督の後を引き継ぐ形での就任となったため、国内組で代表編成した昨年の東アジアE-1サッカー選手権の前を除けば、選手を何週間も拘束してトレーニングする機会が一度もなかったこと。数日前に海外組が集合して、試合をやって解散の繰り返しでここまできましたからね」(後藤氏)

「しかも世界の中での日本の実力を考えれば、『自分たちのサッカー』を貫いてW杯で勝とうなど、とうてい無理な話です。戦力的には出場国中で最低レベルなのだから、対戦相手を研究し、個別に作戦を練って戦うしかない。

まとまった練習時間が取れない代表チームでそうした多様な戦い方を実現させるため、彼はまず基本となる戦い方を決め、そこにいろいろな選手を当てはめてテストし、選手の適性データを蓄積しながら戦術のアイデアを増やそうとしているのです」(西部氏)

毎回メンバーが変わるわけだから当然、チームは右肩上がりに強くなってはいかない。

「その代わりに、一定レベルの強さを持った戦い方の引き出しが何種類もできていくので、それをW杯本番で相手に合わせて組み合わせていくわけです。絶対的な強さを手に入れようというのではなく、相対的に目の前の相手を上回って勝とうというやり方ですね」(西部氏)

(撮影/藤田真郷)

◆1998年のW杯で優勝したフランスと似ている!? この続きは『週刊プレイボーイ』16号(4月2日発売)「ハリルジャパンは“意外と安心”だ!」にてお読みください。