レアルの下部組織に所属する中井は「キリンレモンCUP 2018」で同年代の日本人選手を相手に格の違いを見せつけた。 レアルの下部組織に所属する中井は「キリンレモンCUP 2018」で同年代の日本人選手を相手に格の違いを見せつけた。

サッカーファンの間では、知る人ぞ知る存在だった「レアルの中井君」が先月、日本に凱旋(がいせん)帰国。

9歳から5年間、スペインの地で武者修行を重ねてきた“ピピ”がついにベールを脱いだ!

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スペインの名門クラブ、レアル・マドリードのユニフォームを着た14歳の日本人が、母国・日本での凱旋試合で躍動した。

3月27日から3日間にわたって行なわれた15歳以下の大会「U-15 キリンレモンCUP 2018」(神奈川県平塚市、茅ヶ崎市)で、レアルの下部組織(カンテラ)であるカデーテB(U-15相当)が優勝した。日本サッカーの競技力向上を目的に初開催となった今大会。Jリーグのクラブユースなど国内から7チームが参加したが、レアルは無敗で頂点まで駆け上がり、格の違いを見せつけた。

会場に集ったファンやメディアの注目を一身に集めたのは背番号14を背負った中井卓大(たくひろ)。中盤の攻撃的なポジションに入り、シンプルにパスをさばいて攻撃を活性化。28日のSC相模原ジュニアユース戦では、ペナルティエリア外からゴール右隅を鋭く射抜くミドルシュートを決め、その数分後にはアシストも記録した。

中井は2012年、レアルが「トップ選手育成のための原石発掘」を目的に日本で開催したサッカースクールに参加し、才能を見いだされた。その翌年には入団選考テストに合格し、9歳にして日本人初となるレアルの下部組織に入団を果たしたのだ。各世代のカテゴリーで二十数名ほどの在籍しか許されず、毎年のように半数近い選手が入れ替わるなか、ここまで昇格を続けてきたことだけでも十分な偉業と言っていい。

中井の愛称は“ピピ”。「ピーピー」とよく泣く子供だったことから、母につけられたという呼び名がスペインでも浸透している。大会の表彰式後には、チームメイトと一緒に跳びはねながら大はしゃぎし、「日本で優勝できました。家族も来ていたので、うれしいです」と、優勝の喜びを笑顔で語った。

チームを率いたペドロ・サンチェス監督は「ピピの一番の強みはテクニック。ボールコントロールが素晴らしい」と中井を絶賛。

また、レアルのトップチームでプレーしているブラジル代表DFのマルセロも、そのテクニックに圧倒されたひとりだ。2015年にユースチームの練習場を訪れた際、マルセロは当時12歳の中井が披露したドリブルを目にして口をあんぐり。その映像はチームの公式チャンネルで公開され、レアルファンにも中井の存在が広く認知されるようになった。

5年で最も成長した部分

中井は目標とする選手に、レアルで自分と同じMFとしてプレーするスペイン代表のイスコの名を挙げている。レアルのクラブ関係者は「イスコとはちょっとスタイルが違うかな。ピピはすでに自分のスタイルを確立しているからね」とした上で、彼の特長をこう補足した。

「ピピのテクニックはこのチームでトップ。うますぎるがゆえに、以前はボールを保持する時間が長くなってしまうこともあったが、今はシンプルかつ効果的なプレーができている。それを可能にする判断の速さは、この5年で最も成長した部分かもしれないね」

テクニック、判断の速さを高く評価されている点は、レアルのライバルチームであるバルセロナの下部組織にいた久保建英(たけふさ、現FC東京)と共通している。久保は10歳で海外に渡り、激しい競争のなかでスキルを磨いていった。

久保はFWとの距離が近い、いわゆる“シャドー”でのプレーが多いのに対し、中井はもう少し後ろの位置でのチャンスメイクを得意とする。年齢は久保がふたつ上だが、早ければ2020年の東京五輪で、もしくはその先の日本代表でこのふたりが化学反応を起こすかも…。そんな想像をするだけでサッカーファンはワクワクが止まらないだろう。

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中井卓大(なかい・たくひろ) 2003年10月24日生まれ、滋賀県出身。アズーフットボールクラブ(滋賀)で才能が開花し、9歳でレアル・マドリードの下部組織に入団を果たす。現在はマドリード市内にある中学校の2年生。クラブ公式サイトには身長167cm、体重52kgと掲載されているが、身長はすでに170cmを超えたという噂も。

(取材・文/和田哲也 写真/アフロ)