サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第42回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、西野朗新監督が率いることになった日本代表。W杯まで残された時間が少ない中、どんなチームを構築していくべきなのか、選手選考はどうなるのかを考えた。
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ハリルホジッチ監督が解任されて、西野朗新監督が日本代表の指揮官に就任した。
意見はそれぞれあるだろうが、今は前を向いて進むしかない。W杯本大会まで2ヵ月しかない中で、西野監督がどんな日本代表を作るのか楽しみにしている。
時間がない時に一番つくりやすいサッカーは堅守速攻。西野監督はそこにポゼッションをベースにした攻撃も落とし込めると思うし、モチベーターにもなれる。選手からしても監督が変わったことで、より「日本的なサッカー」がやれるとなれば士気も上がってくるよね。3バックはやることが多すぎるので、おそらくこの状況では選択肢にはないだろう。4バックなら4−2−3−1以外にも4−3−3、4−4−2も相手によって使い分けることができる。
W杯で対戦するコロンビア、セネガル、ポーランドは日本よりも格上。フォーメーションも大事だけれど、西野監督はそれより選手同士の距離感やポストプレー、コンビネーション、サイド攻撃という部分に力を入れるんじゃないかな。
ハリルホジッチ前監督は、そういう部分で選手任せの印象があったけれど、西野監督は出て行くタイミングや場所を細かく詰めていくはずだ。そうやって組織力を高めるーーそれが日本の強みだし、チーム全体のまとまりとしての力が高まれば、アイデアも豊富に生まれてくる。そういうスタイルこそが日本サッカーらしい「ジャパンウェイ」だからね。
時間はないけれど、監督と日本語で会話ができるのは大きいよね。私も現役時代に経験があるけれど、通訳を介して伝えるのはチームがうまくいっている時はいいけれど、歯車が狂い始めると仲介して伝えている間にチーム状況が悪くなってしまうもの。
西野監督は自分の言葉で選手たちにダイレクトに戦術・戦略を伝えられるし、選手たちもこの状況ではそれに応えようと必死に取り組むだろう。ハリルホジッチ体制でのサッカーは個の力を全面に出すものだったけれど、チームが結束すれば組織の中で個人が生きてくるし、プラスαも生まれる。
西野監督が誰を選ぶかは、大枠は決まっているだろう。GKは川島永嗣、東口順昭、中村航輔の3人、DF陣は左SBの長友佑都、右SBの酒井宏樹、CBは吉田麻也、ボランチは長谷部誠。ここに本田圭佑も入ってくるだろう。リーグ戦で力を発揮しているし、あれだけキープして時間を作ってくれる選手は日本には他にいない。
前線は、岡崎慎司がどうなるのか。1トップを考えるなら大迫勇也がいるから杉本健勇との争いになるだろうね。岡崎は高さが杉本よりないけれど、運動量豊富で走り回れる。前から戦えるし、右FWで起用することもできる。そこを西野さんがどう判断するかだね。
岡崎は先発でなくても、ベンチに置いておいてもいい。プレミアリーグでやっている経験値は大きいし、相手も岡崎が出てくれば警戒して身構えるかもしれない。それに岡崎を招集すれば、杉本自身が岡崎よりも勝っている部分はどこだと探すだろうから、さらに杉本が伸びる可能性もある。
選手選考が難しいのは中盤
ただ、1トップにするのか、2トップにするのか、西野監督は相手を分析して対策を取るからまだ確定はしていないのではないか。その攻撃的な部分よりも、まずは守備陣を立て直すべきだろう。ハリルホジッチ前監督は前線からのプレッシングにはこだわったけど、DFラインの作りは甘い部分があった。
守備では、センターバックのひとりは吉田麻也で確定だけど、もう1枚をどうするのか。昌子源、植田直通、森重真人、槙野智章といった選手たちから選ぶのか、それとも他の選手を使うのか注目だ。
サイドバックは左は長友でほぼ決まりだけど、バックアップがいないんだよね。横浜F・マリノスの山中亮輔やサガン鳥栖の吉田豊などフィジカルも強いから面白い存在だけど、槙野をSBで起用する手もある。西野監督がこのポジションをどう考えているか。
それから、宇賀神友弥は一度、左SBで試してもいいのではないかと思っている。クラブでは左サイドでプレーしているのに3月の強化試合では右SBで出場していたから、西野監督にはその辺を汲んでもらいたいところだね。
選考が難しいのは中盤だ。長谷部と山口蛍はほぼ決まりと思うけど、香川真司や大島僚太、遠藤航といった選手が選択肢に入っているのかどうか。中村憲剛という可能性だってあると思うし、これまで招集される機会の少なかった伊東純也や若手の堂安律もいるからね。
攻撃的なポジションに誰を選ぶにしても、やはり日本の特長を生かしたサッカーを構築しないことには難しい。ハリルホジッチ前監督が日本に植え付けようとした「縦に速いスタイル」も「個の力」ももちろん大切だが、それだけに頼ってしまうようだと日本は苦しいと、私は考えている。
日本人の持ち味である俊敏さと技術力の高さがベースにあって、そこに中島翔哉や乾貴士、原口元気や宇佐美貴史といったドリブラーでアクセントをつけていく。相手にボールを持たれたら、グループで相手を追い詰めてボールを奪う。西野監督にはそういう組織力を高めてもらい、W杯本大会に期待を持って応援できる日本代表チームを作ってもらいたい。
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。