若手の起用法について持論を述べた宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第44回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、久保建英を筆頭にJ1の舞台で出場時間を増やしている10代の期待の若手選手たちについて。育成はもちろん重要だが、その起用法について、特に注意すべき点とは?

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風間(八宏)監督の下、名古屋グランパスでは17歳の菅原由勢(ゆきなり)がCBのレギュラーを張り、FC東京では16歳の久保建英がJ1で起用され、ガンバ大阪でも17歳の中村敬斗(けいと)が試合終盤の途中出場を重ねている。

10代の選手が起用され、試合で活躍すると話題になりやすいけれど、個人的な意見を言えば、起用には慎重論を唱えたいんだよ。

セルジ(セルジオ越後)がよく、「日本では22歳、23歳は若いと言われるけれど、海外では普通にバリバリやっているよ」と言う通り、サッカー界では22歳前後の選手は決して若くはない。だから、Jリーグに所属するその年代の選手には自覚を持ってプレーしてもらいたいと思っている。だけど、10代となると話はやっぱり別。

高いレベルでプレーをさせて経験を積ませ、成長の糧(かて)にしたい意図はわかる。若い選手なら終了間際に投入されても、短い時間でも不平不満なく一生懸命に頑張ってくれるから、監督としても起用しやすいよね。

ただ、10代の選手を起用する場合、周りが目を見開くくらいの圧倒的な才能を持っている選手であってほしい。それこそ、イタリア代表でも活躍した若い時のアレッサンドロ・デル・ピエロみたいに。

デル・ピエロは17歳の時にパドヴァでセリエBデビューして、19歳で名門ユベントスの一員になると、1年目の93年に途中出場でセリエA初出場して初ゴール。翌年からは名手ロベルト・バッジョを押しのけてレギュラーを張った。

今シーズン、サンフレッチェ広島でフィジカルトレーナーをしている池田誠剛さんが、ちょうどこの頃にイタリア留学していたんだけど、そこで目撃したのがユベントスで華々しくデビューしたデル・ピエロだった。

池田さんから「その頃のデル・ピエロは試合後に単調な練習を繰り返していた」と聞いたことがある。練習内容はコーチとマンツーマンで、トラップしたら少し動いて、ボールをはたいて、またトラップする。その繰り返し。レギュラーになったからOKではなく、10代のうちに獲得しなければいけないスキルがあるってことだよね。

そして彼が「デル・ピエロ・ゾーン」と呼ばれたペナルティーエリア左45度からのシュートを決めまくるFWへと大きく才能を開花させたのは、特別な才能に加えて、そんな10代の時の地道な積み重ねがあったからだろう。

だから、テルはふて腐れたけどね

最近の日本サッカーでも10代の選手は増えてきているけれど、なんでもかんでもJリーグでプレーさせればいいということではない。デル・ピエロのように特別な才能を持っていて、誰もが目を引く選手なら仕方ないけれど、ちょっとうまいくらいのレベルなら「まだまだ」と我慢させて、必要な能力を磨かせる。それで「いよいよ」となった時にデビューさせるべきだ。

湘南ベルマーレの前身であるフジタを1991年から95年まで指揮したニカノールは、試合に出たくて仕方がない若手を我慢させながら育てるのがうまかった。元日本代表の岩本輝雄がまさにそう。入ってきた時からテクニックはあるんだけど、守備をしないから中盤のポジションが取れなくて、たまに試合に出る程度。だから、テルはふて腐れてね。

私やエジソンが「もっと試合に出たいなら守備もしろ!」って焚き付けたり、時になだめたり、時にすかしたり。そうこうしながら成長してきたら、ニカノールはテルを左SBにコンバートした。DFラインから見ていて、テルの攻撃参加は痛快だったよ。相手の股を抜くパスに正確で速いセンタリング、ドリブル突破、ドカンとパワーのあるロングシュートも打つ。

その後、日本代表に選ばれるまでになったのだから、選手個々の能力や得手不得手、キャラクターをしっかりと見極めて、起用するタイミングを決める監督やコーチの役割は重要ということだよね。

21世紀の現在と90年代とでは選手の気質やJリーグを取り巻く環境が大きく違うから、ニカノールと同じような指導法を取ることはできない部分もあるけれど、若い選手を使う時は当然、監督も起用法をしっかり考えるべきだろう。

これは判断が非常に難しいことではあるが、次代を担う人材を育てることは何よりも重要なこと。それと同時に、Jリーグは勝負に勝つことが最重要なプロリーグだから、監督もコーチもフロントも、まずはプロフェッショナルな姿勢で若手選手の起用を考えてほしいよね。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。