サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第47回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、5月26日(現地時間)にいよいよキックオフのチャンピオンズリーグ決勝戦。世界最高峰の舞台での注目ポイントは? レアル・マドリードとリバプールそれぞれの戦力を分析して考えた。
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チャンピオンズ・リーグ(CL)が、いよいよ大詰めだ。5月26日の決勝戦はレアル・マドリード(レアル)対リバプールになったけれど、どちらが勝つのか。
リバプールの優勝も見たいけれど、スペインリーグの解説をしていることもあって、レアルに勝ってもらいたい気持ちもある。ただ、レアルが勝ったら3連覇だ。ハードな試合が続くこの時代に、3連覇はかなり難しいのではないかと思う。
個人的には、本来なら今シーズンのCLのタイトルはバイエルンのものだったと思っている。準決勝でレアルと対戦して、1stレグを1-2、2ndレグは2-2の引き分けで敗退したけれど、ホームでの初戦を落としたことが痛かった。
バイエルンは1stレグでボール支配率61%とレアルを押し込み、チャンスは作った。だけどシュートが全然決まらなかった。それに対して、レアルは粘り強く守って、ワンチャンスをモノにした。
レアルが「粘り強く守る」という時点で、滅多にないレアな状況なんだけど、レアルは点を取る強さだけじゃなく、守り抜く強さも備えているチームということ。
バイエルンにとって想定外だったのは、主力の負傷だろう。試合開始8分でFWアリエン・ロッベンが、その6分後にはDFジェローム・ボアテングが負傷で交代。攻守の要を立て続けにふたりも欠くことになった。特にロッベンがいなくなったことで、ドリブルでの崩し役がフランク・リベリーだけになり、レアル守備陣を崩しきれなかった。
ケガ人が続出したことが、今季のバイエルンのCL制覇の夢を打ち砕いたと言ってもいい。ロッベンやボアテングの他にも、ケガで離脱しているGKマヌエル・ノイヤーがゴールマウスにいたら結果は違っていたかもしれない。
2ndレグでは、バイエルンのコランタン・トリッソのバックパスをGKスヴェン・ウルライヒが処理を躊躇(ちゅうちょ)して、まさかの後逸。それをレアルのFWカリム・ベンゼマに拾われてやすやすと1点を献上してしまった。あのレベルであんなミスが起きるなんて信じられなかったよ。
それにしても、GKは本当に怖いポジション。勝利していたら手にできた十数億円が、あのひとつのミスで吹っ飛ぶんだから。そう考えたらGKなんて怖くてやれない。
昔、アトレティコ・マドリードでGKコーチをしていた友人のミゲル・バストンがこう言っていた。
彼の息子であるボルハ・バストンは今シーズン、マラガでFWとしてプレーしているんだけど、実は彼のサッカーを始めた頃のポジションはGKで、ミゲルに「なんで息子はキーパーを続けなかったんだ?」と訊ねたら、「GKはシュートを止めて試合に勝てばヒーローだけど、そうじゃない時は相手に体当たりされて、ぶつかりあっての繰り返しで、たったひとつのミスで叩かれるから」という答えが返ってきた。
ウルライヒの今回の失点に繋がったプレーを見て、その言葉を思い出してなんだか切なくなったよ。
タレントが多いレアルが、試合の主導権を握ると思われるが…
一方、ローマを破って勝ち上がったリバプールは、スティーブン・ジェラードのいた2004-2005シーズン以来となるCL制覇を狙うわけだけれど、キーマンはFWのモハメド・サラーとサディオ・マネ、フィルミーノの3人。彼らのスピードとドリブルで守備陣を崩していく攻撃力は強烈だ。
また、リバプールのユルゲン・クロップ監督はドルトムントを率いていた12-13シーズン以来のCL決勝の舞台。あの時はバイエルンに負けたから今回こそはと思っているだろうし、レアルにひと泡吹かせるだけの手腕を持っている監督だ。
何がいいって、あの威厳に満ちた感じが最高だよ。相手監督がジョゼ・モウリーニョ(マンチェスター・ユナイテッド)だろうと、ペップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)だろうと、クロップは自分が一番だという振る舞いをする。
レアルとリバプールの一戦を予想するのは難しいけれど、クリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイル、ベンゼマ、ルーカス・バスケスら攻撃陣にタレントが多いレアルが主導権を握るんじゃないかな。序盤にゴールを決められるかどうかがポイントだね。一方のリバプールはカウンターからゴールを狙えるチームだから、レアルの守備の穴を突いて得点を奪える可能性は十分ある。
それだけに、レアルはGKケイラー・ナバスがキーマンになるはず。ナバスがバイエルン戦と同じようにスーパーなシュートストップを連発すれば、レアルのCL3連覇が実現する可能性は高い。
CL決勝は勝利チームが獲得する賞金が1550万ユーロ(約20億円)。GKにかかるプレッシャーは相当大きいだろうけれど、その中でどちらのチームのGKがベストなパフォーマンスを発揮するのか。そこに注目して観ると面白いと思うな。
(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。