もう16年前のことだ。自国開催のW杯を目前に控え、空前のサッカー熱に浮かされていた日本に、その朗報はもたらされた。
小野伸二(現北海道コンサドーレ札幌)を擁するフェイエノールト(オランダ)が、UEFAカップを制したのである。
UEFAカップといえば、欧州各国の強豪クラブが集うビッグタイトル。現在はUEFAヨーロッパリーグ(以下、EL)へと姿を変えたが、50年近い歴史はそのまま受け継がれている。
そんな価値ある大会で今年、日本代表の酒井宏樹を擁するマルセイユ(フランス)が決勝に進出した。小野のときと同じW杯イヤーでの快挙というのも、どこか因縁めいている。16年前の日本代表は、W杯で決勝トーナメント進出を果たしているだけに、吉兆といえるかもしれない。
とはいえ、マルセイユは決勝でアトレチコ・マドリード(スペイン)に敗れ、優勝ならず。また、酒井自身も約1ヵ月前に負った左ヒザの負傷が響いて、ベンチ入りはしたものの出場はならなかった。
「もちろん、すごく出たかったし、みんなが涙を流しているのを見ると、そこまで悔しい思いをするまでできなかったことが非常に悔しい。こういう舞台で何ができるかが大事だし、また戻ってくるべき場所だと思う」
酒井は試合後、そんな言葉で無念さを口にした。
しかしながら、フランスの国内リーグとは違い、国を超えた戦いであるELを勝ち上がることは、酒井にとって新たな経験となったようで、「(対戦国へ)来てみないとわからないことがいっぱいある」と言い、こう語った。
「いろんな国にいろんなサッカーがあり、それを体感しながら勝利していったのは、すごく大きい。EL全体を通して、自分としてはすごくいい経験ができたと思う」
負傷した左ヒザの具合は?
さてこうなると、日本のファンが期待するのはW杯での活躍。すなわち、ELで貴重な国際経験を積んだ酒井が、その成長した姿を日本代表で見せてくれることである。
「今日(EL決勝)のスタジアムの雰囲気は、ホームとアウェー(の区別)がなく中立な感じで、たぶんW杯に似ていたと思う。そういう意味でもピッチに立ちたかった。やっぱりピッチに立たないと何もしゃべれないし、何をしゃべっていいのかわからない」
W杯については多くを語らない酒井も、「マルセイユに来て、一試合一試合楽しめている。いいサッカー人生を送れている証拠だと思う」と、充実した日々の手応えをはっきりと口にする。
ただ、少し気になるのは、負傷した左ヒザの具合だ。
「ヒザのケガなのでそんなに早く完治することはないが、プレーする分には大丈夫」
酒井はそう言ってW杯への意欲を見せ、「あとは気合いだと思う」と笑うが、その一方で、「自然に動けるようになるためとか、再発させないためのリハビリは続けている。(チームドクターから)痛みがなくなることは、しばらくはないと言われている」という。万全のコンディションとは言い難いのも確かだ。
酒井がマルセイユ2年目の今季、大きな飛躍を遂げたことは間違いない。だが、W杯へ向けては、慎重な調整が求められることになりそうだ。
(取材・文/浅田真樹 写真/AP/アフロ)