直前のガーナ戦は0‐2で完敗。不安な船出となった西野ジャパン

ロシアW杯に旅立つ日本代表の壮行試合となったガーナ戦の翌日、チームを率いる西野朗監督がW杯最終メンバーを発表した。そこで選ばれた23人の選手は、以下の通り(カッコ内の数字は5月31日時点の年齢)。

【ゴールキーパー】川島永嗣(35)、東口順昭(32)、中村航輔(23)。

【フィールドプレーヤー】長友佑都(31)、槙野智章(31)、吉田麻也(29)、酒井宏樹(28)、酒井高徳(27)、昌子源(25)、遠藤航(25)、植田直通(23)、長谷部誠(34)、本田圭佑(31)、乾貴士(29)、香川真司(29)、山口蛍(27)、原口元気(27)、宇佐美貴史(26)、柴崎岳(26)、大島僚太(25)、岡崎慎司(32)、大迫勇也(28)、武藤嘉紀(25)。

ひと言でいえば、予想通りのメンバー選考。様々な捉え方ができるが、結果的にこの23人が選ばれたことについては、西野監督が就任した時点である程度予測できたことでもある。要するに、既定路線のメンバーと言っていい。

そもそも5月30日のガーナ戦のために招集されたメンバーが27人で、そのうち青山敏弘(32)が負傷離脱したため、最終メンバーは26人の中から3人を振り落とすという作業になった。

そして、最終的に井手口陽介(21)、三竿健斗(22)、浅野拓磨(23)とチーム内での年齢が若い順に、かつガーナ戦の背番号が大きい順にメンバーから外れたため、「サプライズがない」「未来につながらない」「ベテラン偏重」といった批判的な声が上がるのも無理はない。

ただ、選考は監督の専権事項であり、ある意味、好みの問題でもあるため、ここではその人選についてとやかく言うつもりはない。しかし問題はメンバー発表会見を終えた段階でも選考基準とチームコンセプトが曖昧(あいまい)なままだったことにある。

「大会に臨むにあたって、対戦国も含めていろいろなプランを立て、いろいろなシチュエーションを考える中で、どれだけ絵を描き、その中に選手がどのように入ってくるのかという可能性をたくさん持ちたいというのが、指導者というもの」

これが会見で選考基準を問われた時の西野監督の答えだった。つまり、その選考基準は“いろいろな可能性を持つための23人”ということになる。そこからは明確なコンセプト、具体的な戦術、それに沿った選手起用といった具体的要素は見えてこない。可能性を広げたいから物事を明確にしたくないのか、明確なプランを描けないから可能性を模索し続けるのか…。

どちらにしても、本番を3週後に控えた指揮官としてはアウトだろう。

これに限らず、4月12日の就任会見以降、西野監督は何ひとつ明言したことがない。常に含みを持たせ、“いろいろ”、“どれだけ”、“どのように”といった不確定要素の強い言葉で物事を抽象的に説明する。答えになっているようで、なっていない。

本気度は伝わってこなかった3バック

西野監督を選んだ田嶋幸三会長は、今回のチームを「オールジャパン」と表現したが、なるほど西野監督は白黒つけない曖昧な状態を好む日本人らしい監督と言える。

実際、その曖昧さは初陣で国内最後の調整試合となったガーナ戦でもよく表れていた。事前合宿で行なわれていた戦術練習の通り、この試合で採用された布陣は現チームが初めてトライする3バックシステム。長谷部を最終ラインの中央に配置した3‐4‐2‐1である。当然ながら、ファンもメディアもそのシステム変更に関心を寄せ、ガーナ戦でのお披露目を心待ちにした。

ところが、その判断材料としては極めて乏しかった若手主体のガーナ戦を終えても、指揮官の3バックに対する本気度は伝わってこなかった。

試合後の会見では、3バックのチェックポイントとして「中央でポイントを作り、サイドでワイドな選手を使っていくサイド攻撃はある程度狙い通りにできた」、「ディフェンスの部分では、マークの受け渡しのタイミング(に問題があり)、3バックがスライドしていく中でギャップを突かれていた」と収穫と課題について言及しながら、その一方で3バックの採用について次のように語ったのだ。

「何度も話していますが、これから3バックだけでやるということは考えていないです。いろいろと対応を考えていく中で、3バックや5バックで押し込まれる状況の対応についてトライをしていなかったので(トライしてみた)。選手たちにも『本大会はこれでいく』とは伝えてないです」

確かに3バックと4バックの併用については合宿中も監督や選手が言及していたので、その発言自体にも驚きはない。しかし、初戦のコロンビア戦までの実戦機会は2試合(6月8日のスイス戦と12日のパラグアイ戦)しか残されていない。

そんな中、もしそこで3バックのテストを続けないのだとすれば、それが絵に描いた餅で終わる可能性は極めて高くなる。逆にその2試合で3バックをトライし続けた場合、西野ジャパンは4バックを実戦で試さないまま本番に臨むことになる。

4バックは慣れ親しんだシステムだといっても、あくまでそれは前任者のコンセプトの中で積み上げたものだ。しかも本番の対戦国レベルの相手に対して機能した経験もない上、縦に速いだけでなく時にはボールを保持しながら攻めるといった“いろいろな選択肢”を模索している西野ジャパンにおける4バックは、前任者時代のものとは全く別物であるはずだ。

3バックか4バックか――また、それぞれのシステムでも守備的か攻撃的かというコンセプトの違いで、それを機能させるための人選とメカニズムは異なってくる。そこが明確になっていなければ、どんなシステムも機能させることはできない。

にも関わらず、指揮官はこの場に及んでも物事に白黒をつけたがらない。そんな極めて曖昧かつ中途半端な姿勢を続けていて、果たして選手に自信を持たせて強豪国と対峙させることができるのだろうか。

長谷部を筆頭としたベテラン勢が過密日程の本大会でフル稼働できるかなど、それ以外にも不安材料は数え切れない。しかしそれ以上に、チーム作りに明確さが存在しないまま本番を迎えることのほうが、よほど大きな不安要素だと言える。

(取材・文/中山 淳)