サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第50回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、いよいよ開幕するW杯での日本代表の戦いについて。ガーナ戦の0-2に続き、スイスにも0-2で敗れ、またしてもノーゴール。初戦に向けて不安材料が多い中、コロンビア、セネガル、ポーランドと対戦するグループリーグの展望を語ってもらった。
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今回のW杯ロシア大会で、日本代表が決勝トーナメントに勝ち上がれる確率は低いとはいえ、グループリーグで対戦するコロンビア、セルビア、ポーランドに全く歯が立たないかと言ったらそんなことはない。少ないチャンスを生かして、勝ち点を獲得できる可能性はある。
初戦のコロンビア戦は、何がなんでも勝ち点を獲りたい。勝ち点ゼロはダメだ。なんとしても引き分けの勝ち点1を手にして、セネガルかポーランドのどちらかに勝負をかける。これしかない。
ただ、2戦目のセネガル戦で勝負をかけるといっても、セネガルも相当手ごわい。前線はリヴァプールのマネがいて、レンヌのサコがいて、モナコのケイタがいる。中盤にバーミンガムのエンドイェ、ウエストハムのクヤテ、DFにナポリのクリバリ。エンドイェ192センチ、クヤテ189センチ、クリバリ195センチ。前は速くて後ろはデカイ。かなり厄介だ。
ただし、セネガル戦は負けを覚悟して最小失点に抑えて、ポーランド戦で勝負をかけられるかといったら、ポーランドの調子のよさを考えるとこれも難しい。ポーランドが初戦、2戦目と連勝して勝ち点6で勝ち抜けを決めた状態で、日本戦でメンバーを落としてきたら展開として面白いんだけどね。
一方で、ポーランドは国内の期待が高まっているので、国民の期待が極度のプレッシャーになれば、つまずくことも十分にありえる。グループHではFIFAランキングの最上位国だけれど、コロンビアやセネガルに負けるようなことがあったらもつれるだろう。
そうなったら日本が勝ち上がる可能性も増す。とはいえ、“マイアミの奇跡”を起こしたアトランタ五輪の日本代表は2勝しても決勝トーナメントに進めなかった。ブラジル代表とハンガリー代表を破って2勝1敗としたけれど、ブラジル、ナイジェリア、日本が勝ち点6で並んで、得失点差でグループリーグ敗退。ちなみに、そこで優勝したのがナイジェリア、銅メダルがブラジルだったことを考えると惜しかったと思ってしまうよね。
いずれにしても、日本代表は初戦からフルパワーで、ベストメンバーで臨むしかない。3バックでやるのか4バックでやるのかまだわからないけれど、個人的には3バックでやってもらいたい。確かに、安定感を求めるなら継続してきた4バックだけれど、今回は「ミラクルを起こしたい!」という気持ちがあっての3バックなのだと思う。できれば3試合とも3-4-2-1で臨んでほしい。
4年前の反省を今大会で活かしてほしい
3-4-2-1での日本のベスト布陣を考えると、1トップは大迫勇也。2シャドーは、1トップと3人セットで機能することを考えると、本田圭佑と乾貴士。2シャドーのところで攻撃のリズムを作るから、本田がボールをキープすると考えると、パートナーはコンディションがよければ乾に期待したい。もちろん、宇佐美貴史という選択肢もある。
中盤の「4」の左が長友佑都で、右は原口元気か酒井宏樹。ボランチは大島僚太を軸にしてもらいたいね。16年9月のW杯アジア最終予選でスタメンに抜擢された時は、大島らしさを全く発揮できずに終わってしまったけれど、リオ五輪前後で強さも増して、あの技術力の高さがどんな相手にも出せるようになった。彼のうまさを世界の舞台で見たい。
問題はその相方だ。守備のことを考えれば山口蛍になるけど、大島のよさを生かすなら柴崎岳という手もある。ガーナ戦ではワイドなポジションで起用されていたけど、ボランチもできるし高い技術がある。
3バックは真ん中に長谷部誠、左に槙野智章、右に吉田麻也でGKは川島永嗣。酒井宏樹をここで使う手もある。酒井宏樹は所属クラブのマルセイユで3バックでもプレーしているからね。
岡崎慎司と武藤嘉紀は2トップでより良さが出る選手だから、フォーメーションを3-5-2、あるいは4-4-2にする時に起用されるんじゃないかな。中盤に質の高いパスを出せる選手がいるわけだから、彼らの持っている力は十分発揮できるはずだ。
そして、もっとも重要なのが守備面でしっかりプレッシャーをかけ続けること。これがないと、たとえ5バックでDFラインの人数が相手FWより多くても守ることがより難しくなっていく。どんなチームでもDFが後手を踏むと危険なシーンを招くことになるんだ。それだけにチーム全体で相手へのプレスを90分間続けなくてはいけない。
あとは初戦のコロンビア戦に向けてコンディションのピークを持っていけるかどうかだ。前回ブラジル大会は、コンディショニングに失敗したことがグループリーグ敗退の要因のひとつになってしまった。だからこそ、4年前の反省を今大会で活かしてほしい。
2010年のW杯南アフリカ大会の時も今回のように日本代表への期待は小さかったけれど、初戦でカメルーンに勝利して一気に注目度が上がった。ロシアでもその再現に期待したいね。
(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。