「何、このレート?」
同行するカメラマンが両替所でしかめっ面を浮かべた。モスクワの空港で日本円をルーブルに換金したのだが、レート設定が思った以上に悪かったのだ。
日本で両替したほうがマシ。空港は両替利益を目論み(旅行者の多くは、まず空港で両替する)、阿漕(あこぎ)な換金率だけに避けるべきらしく、これもW杯をビジネスとして当て込んだ一環だろうか。できるだけクレジットカードを使い、もしくはキャッシングするほうがベターだという。
そもそもお国柄的にも商売に関し、少々乱暴なところはある。「おそロシア」という「恐ろしや」と「ロシア」をもじった言い回しも古くからあるが、お店の人はにこりともせず、いわゆるサービスに関するレベルは著しく低い。何を考えているのか、わかりかねる部分があるのは事実だ。
W杯を主催するロシアは、本当に恐ろしい国なのだろうか?
取材メディアはメディアセンターでパスをもらう時、すぐ隣のデスクで市内のバスや電車のフリーカードをもらえる。これはありがたい。空港行きのエキスプレスでもチケットの引換証となる。
購入した場合も、地下鉄1枚のチケットは55ルーブル。約100円で格安だろう。空港へのエキスプレスも1千円前後だから、決して高くはない。地下鉄車内は暗く、古びていて、運転も雑で急停車、急発進する。ただ、治安の悪さは見えない。物静かな人が多いので、大きな声で喋っている人もあまり見かけず、おとなしくしている人が大半だ。
タクシーは運転手が大抵、スマートフォンを持っており、Google翻訳で会話が成立する。目的地を伝え、運賃交渉をするのがベターだろう。今はア プリを使えば、世界中でタクシーの基本運賃も出てくるので、それがひとつの材料になる。安全な交通手段だが、ほとんどの運転手は基本的な英語単語も理解で きず、それを前提に使用するべきかも。
そういうわけで、SIMフリーのスマートフォン(もしくはSIMフリーのWifiポータル)にロシア のSIMカードを入れて持ち歩けると便利さは増す。メガフォン、MTSなどが大手。今回購入したパッケージは「30日間、つなぎ放題で800ルーブル(約 1600円)」だった。ロシア語を話せれば別だが、英語でのコミュニケーションも難しいだけに、補うツールが必要かもしれない。町歩きは看板や標識もロシア語なので、情報が限られるのだ。
冷たく見える人々も真剣なだけで、思いのほか親切だったりする
物価は決して高くないが、ホテルはこの時とばかりに高騰している。あるホテルはW杯期間外と比べて10倍以上の値段をつけていた。一方で、アパートメント も宿を提供。民泊のようなものか。ただ、ロシアは滞在確認を行政に届ける義務があるので、ホテルならそこまでの面倒はないはずだが、時に手続きで面倒だったりトラブルになることもあるという。
念のために書くが、日本人が入国するにはビザが必要。これを用意していなかった日本人サポーターが入国審査で引っかかり、別室に連行されていった。それにしても、ビザなしで渡航を許した航空会社の責任も不問なのか…。少しばかり恐ろしい光景だった。
しかし、手続きを踏めば、「おそロシア」というほどではない。冷たく見える人々も真剣なだけで、思いのほか親切だったりする。向こうも、慣れていない外国人が怖いだけなのだろう。ボランティアの女のコが見せる笑顔などマニュアルがないだけに、とびっきりの感じの良さだった。
ロシアで過ごす約1ヵ月がスタートした。帰国する時、どのような印象が残るのか。これから不定期連載で、W杯の日々を伝えていきたい。
(取材・文/小宮良之 写真/JMPA)