ひと口に「損傷の度合いはグレード2」といっても、その症状は千差万別。どんな決断が下されるのだろうか「重要な選手を2名失うようなものだ...」

エンゼルスのソーシア監督は、開幕から投打二刀流でメジャーに大旋風を巻き起こしていた大谷翔平の離脱のショックをそう嘆いた。

6 月6日の先発登板時、大谷はマメの影響で4回63球で緊急降板。その後、右肘の違和感を訴えたという。下された診断名は「右肘内側側副靱帯(ないそくそく ふくじんたい)の損傷」。メジャーでは毎年、多くの投手がこの故障を発症し、トミー・ジョン手術(靱帯再建術)に至るケースも少なくない。

エンゼルスの発表によれば、大谷の症状(損傷の度合い)は3段階のうち「グレード2」。すでにPRP(多血小板血漿[たけつしょうばんけっしょう])注射と幹細胞注射による治療を受けており、ひとまず3週間ノースローで経過観察するという。

スポーツ紙メジャー担当デスクはこう言う。

「昨 年末の入団契約時のメディカルチェックでも同箇所に損傷が見つかっていましたが、当時の診断は最も軽い『グレード1』。先日行なったのと同じPRP注射に よる治療を経て、無事に契約に至ったという経緯があります。つまり、大谷の肘はプレーにより悪化したということになるので、今後も保存療法を続けて復帰で きるのか、それとも手術に踏み切らざるをえないのか、米メディアも非常に注目しています」

ここ数年ではダルビッシュ有(カブス)と田中将大 (ヤンキース)も同じ診断を下されているが、ダルビッシュは手術、田中は保存療法を選択している。プロアマ問わず多くの投手の診察、治療に携わってきた船 橋整形外科病院の菅谷啓之(すがや・ひろゆき)医師は、あくまで一般論と前置きした上でこう説明する。

「日本ではよく『メジャーに行った投 手は肘を痛めがち』と言われますが、これは正確ではありません。実は日本球界で投げている投手の中にも、程度はそれぞれですが肘の靱帯の変性などを抱えて いるケースは多い。しかし、それでも痛みなどの症状が出ず、普通に投げている投手が少なくないのです。アメリカではすぐに手術をしたがる傾向があります が、本来はコンディショニングの見直しなども含め、本人が問題なく投げられる道があるなら、必ずしも手術が最適解とは限りません」

では、大谷はどんな選択をするのだろうか? 保存療法と手術、それぞれを選択した投手のリハビリやコンディショニングを手助けした経験のある日本の某球団のトレーナーはこう語る。

「3週間の経過観察後、痛みや腫れが治まっていれば、打者としてはすぐにでも復帰可能です。しかし、投手としての復帰はそう簡単にはいかず、経過がよくても1、2ヵ月は様子を見る必要があるのではないかと思います。

エ ンゼルス球団としても、可能なら保存療法で済むことを願っているでしょう。打者としての期待も大きい大谷が、1年半から2年近くをリハビリに費やすト ミー・ジョン手術を選べば大きな戦力ダウンになる。しかし、大谷はまだ23歳です。今後の長い選手生活を考えると、保存療法で故障とずっと『付き合ってい く』には長すぎる、という考え方もあるかもしれません」

ただし、手術にも当然リスクはある。前出の菅谷医師はこう説明する。

「ト ミー・ジョン手術をしたら球速がアップするなどという根拠のない噂もありますが、それはあくまでも手術とリハビリ中のトレーニングが成功した場合の話で す。実際の術後のデータを見ると、メジャーのトップクラスの投手の場合、故障前と同じレベルの投球ができているケースは70%足らず。一般的に伝わってい るほど、誰でも確実に元どおりになれるような手術ではないんです」

しかも大谷の場合、手術後に投手として復帰するためのリハビリをしている1年半から2年の間、野手としていつプレーを再開できるかも未知数だ。何しろ「二刀流選手のトミー・ジョン手術」というのは前例がない。悩ましい選択だが、今はとにかく軽症であることを祈るしかない。