ポーランドに負けたものの決勝トーナメント進出を決めた日本 ポーランドに負けたものの決勝トーナメント進出を決めた日本

1勝1分け1敗。グループリーグ3試合を戦い終えて、日本が手にした勝ち点は4ポイントだった。他の7グループの最終結果を見ても、勝ち点4ポイントで決勝トーナメント進出を果たしたのは、アルゼンチンと日本のみ。まさに薄氷を踏むようなグループリーグ突破だったといえる。

とりわけ3戦目のポーランド戦は、文字どおり"運を天に任せる"格好の試合だった。この試合では、その"ラスト十数分の西野采配"が世界中で議論の的となったわけだが、その前にポーランド戦の試合内容に触れておく必要があるだろう。今後のことを考えるうえで、それ以上に見逃してはいけない重要な要素が詰まっていたからだ。

まずこの試合の日本は、セネガル戦からスタメン6人を入れ替えている。これは、決勝トーナメントの戦いを見据え、2試合を終えてすでにグループリーグ突破を決めているチームが使う常套手段である。

その手段を、まだグループ突破を決めていない状況で下した西野朗監督の決断は、驚き以外の何物でもなかった。

「勝ち上がることを前提として考えていました。選手たちがダメージを持っていて、フィジカル的にも感じるところがある。決して不正解だとは思ってないです」

試合後の会見で、スタメン変更について問われた西野監督のコメントだ。おそらく、ラウンド16の戦いを見据えた部分と、2試合を終えての選手の疲労度を加味して下した決断だと思われる。

しかし、試合では明らかにその采配が凶と出た。引き分け以上で十分という試合ではあったが、ポーランド戦の日本は、明らかにそれまでの2試合よりもアグレッシブさを欠き、パフォーマンスが低下。選手間の意思疎通が感じられず、ほとんどのプレーが"ぶつ切り"に見えた。これでは、攻撃も守備も機能するはずがない。

たとえばそれは、数字にも表れていた。初戦と2戦目の日本は、試合の速度にブレーキをかけるように後方エリアでじっくりボールを回したため、攻守の切り替えが少なく、インテンシティの低い試合にすることができていた。

日本がその展開を望んでいたのか、単なる安全策としての手段だったのかはわからない。しかし、少なくともそれが日本にとって幸いしたことは間違いなかった。そしてその結果、2試合とも日本のボール支配率は相手よりも上回っていた。

しかし、このポーランド戦の前半のボール支配率は、日本が44%でポーランドが56%だった。4-4-2でしっかりオーガナイズされたポーランドがじっくりパスを回し、システムを同じ4-4-2に変更した日本が、ボールを奪う側に回る展開になっていたのである。

ボールを奪って速攻を仕掛けることも、相手からボールを奪う前からのプレッシングも、現在の日本が確立できていない部分であるため、そうなるとどうしても分が悪くなる。前半、川島のビッグセーブ以外に、日本のプレーに特筆すべきものがなかったのも当然だ。

その流れは後半も変わらず、結果、ポーランドに与えてはいけない先制点を献上してしまう。そこで、冒頭で触れた危機的な状況に陥った。

ここで西野監督は、宇佐美貴史に代えて乾貴士を投入する。すでに後半早々、負傷の岡崎慎司に代わって大迫勇也を起用していたため、残るカードは1枚だ。

しかし、ゴールを奪いにかかろうとした日本だったが、流れを変えるには至らなかった。相変わらず、行き当たりばったりのプレーが目立ち、もはやグループ敗退かと思われたその矢先、残り約15分という段階で、他会場でコロンビアが先制する。

この時点で、セネガルと勝ち点、得失点差、総得点、直接対決の結果でも並んだ日本は、今大会から導入されたフェアプレーポイントで上回っていたため、両会場の試合がそのまま終われば日本のグループ2位通過が決定する。

残りの交代カード1枚を、攻撃のために使うか、守備のために使うか。悩んだ西野監督は、冒頭で触れた「他力本願」の決断を下す。82分、武藤嘉紀を下げて長谷部誠を投入。イエローカードをもらわないことと、このままのスコアで終わらせるためにボールをキープすることを、長谷部を通してピッチの選手に伝えたのである。

指揮官本人も望んでいなかったその采配については、「最終的に日本がベスト16に進出したのだから選択は正しかった」「あのようなサッカーを殺す采配はあってはならない」と、賛否両論があって当然だ。

ここで見落としてはいけないのは、なぜ西野監督がそのような苦渋の決断を強いられることになったのか、という視点だ。実際、日本がラウンド16に進出したのだから、なおさらそこを検証しておく必要がある。

まず、この日の日本は、ポーランドからゴールを奪う可能性がほぼゼロだったこと。そして、一歩間違えばさらに失点する可能性が十分にあったこと。そこが最大の問題だった。

普通のレベルであれば、2点目を奪う必要性のないポーランドに対して、失点するリスクを負うようなプレーをせず、普通に戦っていく中で、時間の経過とともに試合を終わらせる程度のことはできるはず。しかし日本は、ポーランドに対してそれさえも望めないと感じたからこそ、西野監督はこの決断に至ったに違いない。

自ら招いた究極の選択。そこが、ポーランド戦における最大の問題点だ。

そこで見えてくることは、現在の日本は選手が替わるとサッカー自体が変わってしまうということだった。

本来は、監督がコンセプトとそれを実行するための戦術を植え付けるのが通常だが、今回の日本は選手の判断に頼るサッカーになっているため、選手が替わると歯車がかみ合わず、機能不全に陥ってしまう傾向が見て取れる。

後半に投入された大迫、乾、長谷部は、西野監督にとっての頼みの綱であることも、このポーランド戦ではっきりとした。

すなわち、決勝トーナメント1回戦のベルギー戦は、コロンビア戦、セネガル戦のスタメンがほぼ確定的と見ていい。戦い方も、できるだけボールを後方で回して試合の強度を下げ、相手のリズムを壊してミスを待つ、というのが理想的な展開となるはずだ。

随分と"後ろ向きな"サッカーではあるが、残念ながら現在の日本にはそれしか戦う術はないだろう。「アグレッシブに」「攻撃的に」という指揮官の言葉は、実際のピッチ上のサッカーとは180度異なっているが、そこは選手の状況判断に頼るしかない。

ベルギーはタレント軍団ではあるものの、隙の多いチームゆえ、普通に考えればアップセットのチャンスはある。しかし、残念ながら現在の日本はその隙を突く能力はない。勝つためには、正面からぶつかることはせず、まともな勝負を避けるしか方法はなさそうだ。

西野ジャパンがPKの練習を重ねる理由は、そこにあるのではないだろうか。