ベルギー代表との決戦を控える日本代表 ベルギー代表との決戦を控える日本代表 ソチ駅を出発し、日本代表がベルギー代表と戦うロストフ行きの寝台列車に乗って、この原稿を書いている。窓からは強い西日が降り注いでくる。列車は黒海沿いを走り続けている。

ギリギリで決勝トーナメントに進出した日本は、ベルギーと対戦する。

「卑怯な戦い方だった」

日本国内ではいまも、こうした見方があるそうだ。グループリーグ第3戦、ポーランド戦でリードされながらFWを下げ、ボールを回し続け、露骨な時間稼ぎをした。もうひとつのカード、コロンビア対セネガルで前者が1点リードし、「イエローカードの枚数の少なさ(フェアプレーポイントの差)で日本が勝ち上がれる」という条件になったからだ。

「セネガルが追いついていたら、どうしていたんだ」という声もある。

しかし、勝負は博打である。セネガルが追いついていたら賭けに負けた、それだけのことである。勝負というものに対し、あまりにナイーブすぎはしないか。

韓国メディアは、「恥ずべき戦い」などと書き立てているらしい。それは的外れというものだろう。

「我々は大会最低のチームだった」

ポーランドの選手たちは日本に勝った後、いみじくもそう語っていた。勝ち残れるかどうか。それがW杯なのだ。

W杯を勝ち上がることがいかに難しいか。それはイタリア、オランダ、チリが出場すら叶わず、世界王者ドイツがグループリーグで沈んだことでもわかるだろう。ベスト16ではクリスティアーノ・ロナウドも、リオネル・メッシも消えた。

では、日本はベルギーを撃破し、ベスト8に進めるのか。

ベスト8は未知の領域である。過去、日本はベスト16に2度、進んでいるが、その先にはたどり着けていない。

しかし気運のようなものはあるし、なにより選手たちの質は悪くはないはずだ。

そもそも大会前に受けていた批判は、選手個々の能力をまともに取り上げていたものではなかった。ヴァイッド・ハリルホジッチが率いたチームへの不信感、監督が唐突に解任されてからは痛烈な協会批判など、取り巻くものに対してのマイナス感情が、「おっさん集団」と選手の実力や現状を無視して非難へとつながった。

主将である長谷部誠はドイツカップ王者、長友佑都はトルコリーグ王者、酒井宏樹はヨーロッパリーグのファイナリスト、乾貴士は世界最高峰のラ・リーガで主力を張る。さらに本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、吉田麻也、川島永嗣は、欧州各国で経験を積んできた猛者だ。また、大迫勇也、原口元気、武藤嘉紀もヨーロッパでの評価は低くない。

「勝てない」

そうあきらめて、身をすくませる必要はないだろう。厳しいが、必ず活路はあるはずだ。

ベルギーは優勝のダークホースだろう。スペイン人監督のロベルト・マルティネスに率いられ、攻守に整然としたプレーを見せる。3―4―2―1というシステムで、各ポジションに人材が揃う。

ケビン・デ・ブルイネは、イニエスタ、モドリッチとこれから肩を並べる「フットボールの申し子」といえる。ロメル・ルカクはすでに大会で4得点し、190センチオーバーの巨躯に似合わぬスピードと繊細を持ち、欧州のトップストライカーのひとりだ。GKティボ・クルトワはチェルシーの守護神で、やはり同ポジションで欧州屈指だろう。そしてエデン・アザールはプレミアリーグのベストプレーヤーのひとりで、高速プレーの中で精度が落ちない。

選手層は厚く、控え組中心でイングランドを1―0で下している。グループリーグは3連勝で、9得点2失点。得点力は高く、失点も少ない。

しかし、彼らも盤石ではないだろう。たとえば、3バックは横で幅を取る動きに弱く、受け身に回ると綻(ほころ)びは出やすい。タイトルを獲ったことがないだけに、常勝チームとはいえず、どこか勝負脆さを抱える。

昨年11月、日本はベルギーと対戦し、0―1と敗れている。しかしブラジル戦と違い、完膚なきまでに叩きのめされたわけではなかった。

ひとつだけ焦点を探すとすれば、ベルギーの左サイドか。突破力のあるカラスコを酒井宏樹が封じ、その小さな局面の勝利を全体の勝利に結びつけることができたら──。逆サイドの乾もアドバンテージを取れるはずだ。

まずは、長谷部を中心にハイプレスとリトリートを適時に用い、守備を固める。サイドは攻守の切り替えで優位に立ち、中盤を安定させつつ、香川、大迫、柴崎岳がプレーの渦を広げる。そして本田圭佑、岡崎慎司、武藤嘉紀のいずれかを切り札に使えるか。

「毎試合失点しているので、満足できないですね」

ポーランド戦後、そう語っていた吉田麻也はベスト16に甘んじていなかった。

列車は黒海沿いを走り続けている。所要は14時間。日はだいぶ落ちてきた。朝7時、起きたら決戦の地、ロストフに到着している。