埼玉栄で1年の夏からベンチ入りし、同年の秋にはエースを任されるようになった米倉。東北高時代にダルビッシュ有を指導した若生正廣監督は、「力はダルビッシュの同じ時期より上」と絶賛する

今年で100回目の節目となる全国高校野球選手権大会。聖地・甲子園への出場権をかけて、すでに全国各地で地方大会が開幕している。

今回は記念大会ということで、出場枠が従来の49校から史上最多の56校に増枠。埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡から2校ずつ出場することになっている。

その中で、とりわけ大きな注目を集めている地区が埼玉だ。今年は例年以上にプロ注目の逸材が多いため、各球団のスカウトが集結することになるだろう。

本来ならば高校野球界の顔になっていてもおかしくない資質を持っているのが、米倉貫太(埼玉栄)だ。身長184cm、体重83kgのスラリとした体躯(たいく)に、整った美しいフォーム。誰もがひと目見ただけで「ただ者ではない」と感じる本格派右腕の素材である。

埼玉栄の若生正廣(わこう・まさひろ)監督は東北高監督時代にダルビッシュ有(現カブス)を育成した名伯楽だが、その若生監督をして「日本一美しいフォーム」と言わしめる。なお、余談ながら、米倉の出身中学チームの浮羽ボーイズ(福岡)のOBにはゴールデンボンバーの樽美酒研二がおり、何かと「ダルビッシュ」には縁がある。

そんな米倉だが、高校3年の春までは「自分に自信が持てなくて、不安のなかで投げていた」と本人が語るように、実戦で結果を残せずにいた。体の成長が続いていたこともあってパフォーマンスが安定せず、公式戦では県大会ベスト8より上に進出したことはない。本来なら「ドラフト1位級」と評されてもおかしくない存在なのだが、プロスカウトからの評価もさほど上がってきていない。

しかし、夏の大一番を前に米倉の内面に変化が見え始めている。本人は「落ちるところまで落ちたので、もう開き直っている」と明かすように、かつての気弱な雰囲気はなくなってきた。底知れないポテンシャルの一端を見せられれば、今夏の主役になってもなんら不思議ではない。

あるスカウトは「試合勘に長たけている投手なので、あとはストレートを意識して生かすことができれば、もっと体もキレてくるはず」と期待を込める。若生監督も「今は145キロくらいしか出ないけど、150キロを出してもおかしくない」と語る。

そんな埼玉栄が戦う南埼玉大会で、最大の難関になりそうなのが名門・浦和学院だ。お互い順当に勝ち上がれば準決勝で相まみえるが、浦和学院にもプロスカウト垂涎(すいぜん)の本格派右腕がいる。

身長190cm、体重87kgの大型右腕・渡邉勇太朗。あるベテランスカウトが「あまり騒がれていないけど、今年の高校生投手でナンバーワンの大器」と評するほどの素材の持ち主だ。

騒がれていないのには理由がある。今年の春先に右肘を痛め、春の県大会は登板なしに終わったためだ。だが、大黒柱を欠きながらも、浦和学院は春の県大会で優勝。続く関東大会ではケガの癒えた渡邉が復帰登板した。本人によると「7、8割の力でコントロールとフォームを重視した」という本領発揮とは言えない内容ながら、大器の片鱗(へんりん)は見せた。

好投手がそろう浦和学院の大型右腕として注目される渡邉。最速は145キロながら、長身から投げ込む角度のある直球と、巧みな変化球で打者を翻弄する。今後の成長も含めてスカウト陣の評価は高い

渡邉の長所は、これだけの大型投手ながら試合をまとめる力があることだ。制球力があり、カーブ、スライダー、スプリットなどの変化球も高い精度で扱える。さらに冬場の体づくりで体重が増し、本人いわく「冬を越えてボールの質が強くなりました」と自信を深めている。最速145キロの球速は、今夏に更新されそうな気配がある。

渡邉は「ライバルはいませんが、世代で一番の投手になりたいです」と息巻くが、その言葉が大言壮語に聞こえない。それだけの実力と才能を備えている。今夏に100パーセントの力を見せることができれば、ドラフト1位候補に躍り出る可能性も十分だ。

浦和学院には、今春は状態を崩していたものの、佐野涼弥という注目左腕もいる。もし渡邉、佐野の"二枚看板"が本領発揮すれば、全国制覇を狙える布陣になるだろう。

1年の秋から花咲徳栄の4番を務める野村。高校通算52本の本塁打を誇り、逆方向にも長打が打てる強打が魅力。投手としても最速146キロを投げるなど、「二刀流」の選手としても注目を集める

一方、北埼玉大会で突出しているのが、昨夏の日本一チーム・花咲徳栄(はなさきとくはる)である。特に注目は昨夏に続き4番を担う主砲・野村佑希だ。

身長185cm、体重91kgの大型スラッガーで、今春時点で高校通算52本塁打を放った長打力は本物。あるスカウトは「運んで飛ばすようなスイングで、プロでも将来中軸を打てるだけの力がある」と太鼓判を押す。

昨夏は外野手だったが、今春から三塁手にも挑戦。まだおぼつかないシーンも見られるものの、岩井隆監督は「へたじゃないし、存在感があるので仲間への声かけなどの影響力もある」と評価する。

昨夏の甲子園で打率5割2分、2本塁打と大活躍したこともあり、マークは厳しい。しかし、本人が「アウトコースの球を右方向に飛ばすよう練習してきた」と語るように、打球方向が広角になってきた。今春の関東大会で放った高校通算52号は、ライトスタンドに放り込んでいる。

そして、野村にはもうひとつの顔がある。それは「投手・野村」だ。今春は調整が間に合わなかったが、150キロも望めるほどの潜在能力がある。昨年に比べて投手力が弱い花咲徳栄に投手・野村のピースが加われば、夏連覇の期待もますます膨らむ。野村の「二刀流」としての活躍が見られるのか、見逃せない。

なお、野村は中学時代に群馬県にある太田市リトルシニアに所属したが、今年の埼玉には蛭間拓哉(浦和学院)、和田康平(埼玉栄)と群馬の中学から進学しているスラッガーが目立つ。特に和田はまだ2年生だけに、今夏以降もチェックしたい逸材だ。

南北埼玉大会は7月7日に開幕予定。例年以上に有望選手が多く、第100回大会という歴史的な大会でどんな名勝負、名場面が生まれるのか。今から楽しみでならない。