7月10日に後楽園ホールで自身のプロデュース興行を開催する長州力

7月10日、長州力プロデュース興行の第2弾「POWER HALL2018~Battle of another dimension~」が開催される。

メインイベントの6人タッグマッチで長州は全日本プロレスの秋山準と初対決し、"入りそうで入らない"長い入場パフォーマンスで話題沸騰のWRESTLE―1の黒潮"イケメン"二郎とも初遭遇を果たす。さらには今年1月の興行で「プロレス辞めたほうがいい」と"引退勧告"を突きつけたDDTの巨体コミカルレスラー伊橋剛太の参戦も決まり、注目を集めている。

66歳の今も現役を続ける長州にとって、「良いプロレスラー」とはなんなのだろう? 大会直前でピリピリムードを漂わせる長州に、彼のプロレス哲学を聞いた!

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今回の興行の目玉とも言えるのが、秋山準の参戦。意外にも長州とは初対決となる。

「よく参加してくれたよね。今の全日本を見ていると頑張っているなと思いますよ。体の大きな選手もいるし、懐かしいというか、自分たちがやってきた時代とマッチしているというか、プロレスの醍醐味を見せている。その中で秋山は舵取りをしているわけでしょ?」

秋山は2014年に全日本プロレスの社長に就任。経営危機に直面していた団体の改革を進め、復活に導いた立役者だ。選手としても若手の壁となり、「経営者」と「トップ選手」の2足のわらじが、40代半ばにして秋山の強さに磨きをかけたとの評価も聞く。

「大変だと思いますよ。でもそのあたりは秋山にしかわからないこと。僕にはわからないし、知ろうとも思わないですね。あとはリングに上がったときに自分がどうなるか。そういう部分では楽しみですね」

長州と秋山は同じ専修大学レスリング部出身。確かなレスリング技術に裏打ちされたトップレスラーという共通点がある。その意味では、かつて長州の付き人を務め、秋山とはプロレスラーとして同期でライバルでもある、新日本プロレスの永田裕志のことはどう評価しているのだろう? 永田は日本体育大学レスリング部時代に全日本大学グレコローマン選手権で優勝するなど、数々の実績を持つ。1995年の新日本とUWFインターナショナルの全面対抗戦では、横浜アリーナでの前哨戦で、長州は永田をパートナーに大抜擢している。

「あの頃の永田はアマレスから転向して間もない頃ですからね。あいつはグレコの学生チャンピオンだったから、言ってみればバリバリ。そう簡単には倒されないですよ。だからあれは、僕なりのUに対する"シュート"です」

"シュート"とは真剣勝負を意味する。加えて「でも、あいつはキレやすいんですよ。あのときもなんかそんな感じでしたよね」と永田がキレていたことを明かしつつも、信頼を寄せていたことがわかる。

今大会に話を戻すと、もうひとつの目玉とも言えるのがWRESTLE―1の黒潮"イケメン"二郎との初遭遇だ。「この選手は、僕は一番接点が薄いんですよ。たまに道場でテレビを見ていると試合をやっているぐらいで、印象っていうのもそこまでないんです」と話す長州。ふたりを繋ぐのは、新日本プロレス時代から互いをよく知る武藤敬司の存在だ。

「どっかで敬司が彼のことを『これからの時代に合っているレスラー』と言ってたんだけど。何をもってそう言っているのかわからないんだけど、それはいいことじゃないですかね。彼には彼のスタイルがあって、それを変えろとか、それがいいとか悪いとかいう時代ではないですよ。やっている本人は一生懸命やっているわけだから」

そして「敬司が言うそれは当たっているんじゃないですかね」と、"イケメン"が時代に合ったレスラーであることを認める。しかし、福山雅治の有名曲にのせた長い入場シーンで観客の心を掴む手法は、長州自身とはある意味、真逆。さらに空中技でも魅せるスタイルをどう思っているのだろうか。

「僕とはスタイルが違うとか言う人がいるけど、そんなことないですよ。僕は自分のスタイルが"重い"とは思っていないわけだから。(彼は彼のやり方で)いいんじゃないですか。僕に合わせることなんか全くない。逆に僕は僕で5秒から10秒くらいでパッパッと(リングに)上がっちゃう。それが僕のスタイル。スタイルというか僕なりの客との勝負ですよね」

その上で、自身のプロレスへの矜持をこう語る。

「僕は何度も言ってきたと思うけど、僕の試合で会場から笑いが起きたらそのままシューズぶん投げてリング降りますよ。そうなったら終わり。笑わせるのと笑われるのは全く違いますからね」

ここで、「良いプロレスラー」の評価基準を聞いてみた。

「それは僕が決めることじゃない。僕はプロレスラーという言葉が嫌いなんです。リングに上がる限りはプロのレスラーであってほしいです。そのへんの意識ですかね」

そこで気になるのが、伊橋剛太への発言だ。前回の後楽園ホール大会で伊橋はメインらしからぬ煮え切らない試合をして、その不甲斐なさに長州は「プロレス以前の問題」と断じて"引退勧告"を告げた。伊橋は今回、30キロ減量し、第1試合で藤原喜明と対戦する。

あの発言の真意を尋ねると「あのまんまですよ。みんなが思っているような過激なことを言ったつもりもない。あのときの彼はダメですよ。頑張っているとかいないとかでなく、それ以前の問題ですね」と、にべもない。あの発言の裏には、今の時代は以前に比べてプロへのハードルが下がっているとの思いがあるのだろうか?

「プロのハードルがどうのこうのとか僕にはあまり関係ないです。僕が辞めろと言っても辞めないだろうし、僕にその権限はないですよ。彼に関しては触りたくはないです。触ろうとも思わない。今の時代がどうのこうのは僕は言いたくない。それぞれの時代に合ったものを提供していけばいい。僕たちの時代とは全く違ってきてますからね。でも、みんな頑張ってますよ。新日本の道場に行くと今の若い選手は一生懸命、汗流してますよ」

新日本プロレス時代は"現場監督"も務め、若手にチャンスを与える立場でもあった。たとえば、WJプロレス立ち上げ(2002年)でも行動を共にし、現在はレフェリーとして活動する保永昇男に関しては「(新日本時代から)一生懸命練習してましたよ。だからチャンスを掴みましたよね。僕は誰にでも平等にチャンスを与えてきたと思っています。"波"に乗るか乗れないかはもう本人しだい」と言う。選手に活躍のきっかけは与えても、それ以上の手助けはしないということだ。

ならば、未完成の若手レスラーとの出会いに喜びを感じるかと問うと、「ない」と断言する。
 
「僕は育てようとは思わないです。あり得ないですよ。それは個々がそれぞれやっていくわけだから。選手の面倒は見ますよ。事故でも起きたら大変ですからね。でもそれだけ。育てるのは自分。僕じゃない。(プロレスラーとしての道は)ひとりひとり違うわけですから」

自身のプロレス道も、決して平坦ではなかった。1974年8月のデビューから時を経て、66歳の今も現役を続ける。その理由は、刺激的な選手との出会いを求めてのことだろうか?

「そんなこと考えたこともない。ましてや自分は一度(東京)ドームで引退してる人間なわけだから」

藤波辰爾への"噛ませ犬事件"、大仁田厚の挑発を受けての現役復帰など、長州の存在はいつの時代もニュースを生んできた。伊橋剛太への発言も、本人の意図にかかわらず、"プロレスラー"というものを考えさせる契機となっている。"一度は引退した人間"という十字架を背負いながらも、長州の興行には団体の枠を越えて選手が集結する。"革命戦士"への期待はいまだ高く、今回は秋山や"イケメン"との初対戦という新たなチャレンジもある。

「僕自身はチャレンジしているつもりもないですね。基本的に体を動かすことが好きだし。体を動かしていると自分が変わっていく、いや、変わったような気がするというのかな。精神的なものかもしれないけど」

そして「でも今はそういうものすらも薄れてきている」と続ける。

「どこまでできるのかわからないけど、やっていると今回の秋山との(対戦の)ようなことが起こる。だから今はやっているっていう考えです」

淡々とした語り口ながら、リングに上がる限りいつも観客の期待以上のものを見せてきた長州力。これからの"革命戦士"の闘いにファンの期待は高まる――。

●「POWER HALL2018~Battle of another dimension~」
7月10日(火) 後楽園ホール 開場17:30 開始18:30
対戦カードなど詳細は大会HPでチェック!

●『真説・長州力 1951-2018』
田崎健太・著/集英社文庫/1000円+税
2015年に刊行され話題をさらったノンフィクションが、長州力本人、永田裕志、安生洋二への追加取材、加筆・改題し文庫版で再登場!