大会直前の監督交代、グループ最下位予想......逆境をはね返した西野ジャパン

決勝トーナメント1回戦でベルギーに惜敗したものの、どん底だった開幕前の状態を思えば、誰が西野ジャパンのここまでの頑張りを予想できただろうか? 直前合宿から取材を続けてきた番記者たちが、現場で見た指揮官の素顔を明かす。

* * *

一般紙・番記者A氏(以下、A) 大会開幕前は大方のメディアやファンが悲観的な予想をしていた日本代表だけど、グループリーグを突破しただけでなく、決勝トーナメント1回戦では強豪ベルギーを相手に一時は2点をリードする大健闘を見せ、世界を驚かせた。これはやはり、緊急登板にもかかわらずチームをまとめ上げた西野監督の功績が大きいよね。

サッカー専門誌・番記者B氏(以下、B) いわゆる"名将"タイプではないんですけどね。何しろ彼の言葉は意味不明なところが多い上に、話が突然変な方向に飛ぶので、周囲が理解できないこともしばしば。ある選手が西野監督に守備の質問をしたら、攻撃についての答えが返ってきたこともあったとか(笑)。

しかし、そんな監督だからこそ、「だったら自分たちで考えていくしかない」と選手だけで集まって何度もミーティングを行ない、攻守の方向性を固めていった。それでも意見が分かれて決め切れないときだけ、西野監督に最終判断を仰いでいたようです。そんなプロセスがチームに一体感をもたらしたのは間違いない。

サッカーライターC氏(以下、C) 大会開幕前、選手たちはハリルホジッチ解任以降の代表チームや日本サッカー協会に対する世間の逆風を痛いほど感じていて、口々に「これでグループリーグ3連敗して日本に帰るようなことがあったら、サッカー人気が一気に低迷してしまう」と危機感を露あらわにしていました。そうした彼らの悲壮なまでの覚悟と、西野監督の放任主義がうまくマッチした印象です。

 一方で西野監督には、頑固な面もある。登録メンバー入りはしたもののコンディションがなかなか上がらず、別メニューでの練習が続いていた岡崎について、周囲のスタッフはバックアップ選手である浅野との入れ替えを進言していたのですが、監督は「自分が信じて選んだ選手だから」と耳を貸さず、当初はグループリーグ3戦目からの出場に間に合うかどうかとみられていた岡崎を残した。結果的に、順調な回復もあって初戦からのプレーが可能になっただけでなく、2戦目のセネガル戦では本田の同点弾のお膳立てをしました。

C コンディショニングといえば、西野ジャパンは過去のW杯に出場してきた日本代表に比べ、異例の手法を取っていました。大会直前合宿は、これまでならハードな練習を行ない、いったん選手の体を追い込んでいた。しかし、今回はレギュラーシーズンで蓄積した疲労の回復に重きを置いたのか、練習メニューはこちらが大丈夫かなと思うくらい軽く、何度か完全オフ日も設けた。でも決勝トーナメントまで戦うことを視野に入れれば、その調整で正解だったのかもしれません。

 ポーランド戦では、先発組温存のためメンバー6人を入れ替え、終盤には負けていたにもかかわらずそのまま試合を終わらせようと、自陣でのパス回しで残り時間を消費させた。そんな割り切りぶりにも驚かされたよ。

 あれは西野監督なりの"復讐"に思えました。1996年アトランタ五輪で指揮を執ったとき、決勝トーナメント進出こそ逃したけれど、ブラジルを破るなどグループリーグを2勝1敗の好成績で終えたにもかかわらず、日本サッカー協会の技術委員会に「守備的なサッカーで将来につながらない」と総括されてしまった。だからポーランド戦でのボール回しは、アトランタ五輪当時の技術委員長だった大仁邦彌(だいに・くにや)氏(現・日本サッカー協会名誉会長)に対する「見栄えが悪かろうと、結果を残してこそ将来につながるのでは?」という西野監督の反論だったんじゃないか、とね。

そしてベルギー戦では守り一辺倒ではなく、要所要所で日本ならではのパスサッカーを仕掛けて、「俺は攻撃をやらせることだってできるんだぜ」と証明してみせたっていうのは......深読みしすぎかな?

 けっこう反骨の人でもありますからね。だけど一方で、かなりの"天然"。直前合宿中の会見では、キャンプ地のオーストリアのことを「オーストラリア」と言い間違えていたし、大会初陣のコロンビア戦の前日会見では耳に引っかけるタイプの同時通訳用イヤホンの装着方法がわからず、同席していた長谷部につけてもらっていた。

でも、それで翌日勝利を収めたら、次のセネガル戦前の会見では験を担いだのか、わざわざ隣に座った吉田につけてもらって、結果は引き分け。なのに、ポーランド戦の前日会見ではなぜか自分でつけて、黒星。さらにベルギー戦の前日は、選手代表として出席していた昌子がガチガチに緊張していたのを気遣ってか、また西野監督自らがイヤホンを装着したら......。

 まあ、それが直接の敗因ではないけどね(笑)。ただ手腕はともかく、コロンビア戦では開始早々に相手選手が退場した上、警戒していたハメス・ロドリゲスは故障明けで途中出場。そして後半から投入した本田のCKが決勝ゴールを演出し、ポーランド戦では他会場の結果次第というのるかそるかの戦い方をあえて選び、逃げ切った。

そしてベルギー戦では、ケガの回復が間に合うか危ぶまれていながらメンバーに選んだ乾のスーパーゴールが生まれるなど、西野監督が"説明できないことを起こす人""持っている人"だというのは、現場にいた番記者たち全員が認めざるをえなかった。

◆『週刊プレイボーイ』30号(7月9日発売)サッカー日本代表ワイド『「2022年カタールW杯」ガチで優勝を狙える日本代表メンバー&強化法はコレだ!&番記者座談会 "大健闘"西野ジャパン、ベンチ裏のイイ話』より