サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第53回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、ロシアW杯に出場した世界の名手たち。今大会も多くのスタープレイヤーたちが出場したW杯だが、その中には、クラブチームほどの活躍ができなかった選手や、いかんなく実力を発揮した選手などさまざま。そこで、クラブチームでの印象を交えて現時点までの感想を語ってもらった。
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メッシにとってやはりW杯は難しい大会なんだね。あれほどの選手をしても、ひとりじゃサッカーはできないということを教えてくれた。
ベスト16で敗退したアルゼンチン代表は、メッシに任せっきりで、メッシにボールが渡ると周りの味方は全然動かない。だから、メッシにはワンツーのパス交換などのコンビネーションで崩すという選択肢が少なくて、ドリブルで仕掛けてもすぐに3、4人に囲まれてしまう。コンディションがよければ、それをスルスルっとかわすのかもしれないけど、W杯ではそこまでコンディションは上がっていなかった印象だ。
逆の見方をすれば、バルセロナがどれくらいすごいサッカーをしているかってことだよね。
バルサは今季のラ・リーガで38試合を28勝9分1敗の勝ち点93で2年ぶりに優勝したけれど、2位のアトレティコ・マドリードに14点差、3位のレアル・マドリードに17点差をつけての圧勝だった。
その原動力がメッシとスアレスだった。バルサがリーグ戦であげた99得点のうち、メッシが34ゴールを決めて得点王、スアレスがリーグ3位の25ゴール。ふたりでチーム全体の約6割にあたる59得点をあげていた。
しかも、ふたりがすごいのは、それぞれがアシスト数でリーグトップの12本を記録していること。単純計算で、バルセロナのゴールが生まれたシーンの84%は、メッシとスアレスが関わっていたことになる。
だけど、それができたのも、メッシ任せ、スアレス任せではなく、バルサがチームとして機能していたからこそ。メッシがゴール前で輝くように、ほかの選手達がパスをつなぎながら攻撃をつくっていたのがバルサで、アルゼンチン代表にはそこが欠けていた。
苦戦したメッシとともに、ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドはゴールを決めたけれどベスト16で敗退。それでも、ポルトガル代表のW杯初戦となったスペイン戦ではハットトリックを決めた。モロッコ戦ではCKから抜群の動き直しでヘディングシュートを決めて決勝点をマーク。リーグ戦を戦い、チャンピオンズリーグも決勝までいって優勝し、ほかのどの選手よりもシーズンで戦った試合数は多いのに、疲れを感じさせないプレーを見せてくれた。まあ、守備をそれほどしないから、他の選手よりは試合での疲労そのものが少ないこともあるだろうけど(笑)。
それでも、シーズン終盤の勢いそのままにW杯でもゴールを決めた。2017-2018シーズンの序盤戦は、シュートを打てども打てども決まらなくて大スランプ。リーグ戦では19節を終えた時点でのゴール数はわずかに4点で、得点ランキングにクリスティアーノ・ロナウドの名前が載っていない怪現象が続いた。
その頃のロナウドは、見るからに体が重そうで、判断も悪く、シュートが決まらない焦りから力んでしまい、簡単なシュートでもクロスバーの上に吹かしていた。ラ・リーガの各クラブには世界トップレベルのGKが揃っているから、際どいところを狙いすぎた影響があったかもしれないけど、「これがクリスティアーノ・ロナウドか?」「ついに普通の選手になってしまったのか」と思ったものだよ。
だけど、やはり次元が違ったね。20節からは人が変わったようにゴールを決め続けた。20節からの9試合で奪ったゴール数は18点! 第29節のジローナ戦では1試合4ゴールだ。怒涛の追い上げで最終的にはスアレスを抜いて得点ランキング2位。
その勢いはW杯でも続いていた。グループリーグ初戦のスペイン戦の2ゴール目は、ほぼ正面のシュートなのに、あのデ・ヘアが止められないんだから。しかも、ゴール後のパフォーマンスではいつもより高く飛んでいて、憎たらしいまでのカッコよさ。
一方、躍進したクロアチア代表はスペインの2大クラブ、レアル・マドリードのモドリッチと、バルサのラキティッチが抜群だ。
モドリッチは15回くらいボールに触れば、10回はサッカー通を唸らせるプレーをする。ラキティッチもサッカーというものを知り抜いているポジショニングやプレーをする。なにより、クロアチアはDFラインの置きどころが気持ちいい。クロアチアのDFラインを見てそう感じているDF出身者は多いと思うな。
W杯は、いつも見ているクラブなら味方同士の選手が対戦したり、その逆もあったりで、やっぱりおもしろいし、サッカーの奥深さにあらためて気づかせてくれる大会だね。