快進撃を続けるサンフレッチェ広島について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第54回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、J1リーグの前半戦で快進撃を続け、首位を快走するサンフレッチェ広島について。去年のリーグ戦では降格圏をさまよい、シーズン途中の監督解任もあったチームがいったいなぜ、これほどの成績を残せているのか? 宮澤ミシェル氏にその要因を語ってもらった。

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中断期間から再開となる今シーズンのJ1リーグ、前半戦を振り返ると、やっぱりサンフレッチェ広島の快進撃がすごかった。今季から監督が城福(浩)さんになって、開幕前から期待はしていたけれど、まさか12勝1分2敗で、首位を突っ走るなんて予想していなかったよ。

今年の広島は精神的なあり方が去年と全然違っている。チーム全員の戦う姿勢が試合中のあらゆる局面で前面に出ている。球際のところなんて雲泥の差があるよ。

去年のリーグ戦は降格圏をさまよい、シーズン中の監督交代もあって、34試合で8勝17敗9分け。そこに新たに来た城福さんも、2016年はFC東京の監督をしたけど結果が出せなくて、シーズン中の解任を経験した。監督もチームも心の底から勝利に飢えていたよね。

広島もチームとして切り替えないといけない。城福さんも監督として変わらないといけない。両方のタイミングがピタッとハマり、まずは守備のところから手を付けてフィットし、攻撃ではパトリックやティーラシンが結果を出してくれた。

開幕戦の札幌戦をティーランシンのゴールで勝利すると、2節では浦和ホームで2−1と連勝。これでグッと乗ったよね。

城福さんは2016年にFC東京を率いたときは「ムービングフットボール」のスローガンを掲げたけれど、そこに縛られすぎた面はあった。だから、今回はわかりやすい旗を立ててはいないけど、監督としての変化もあるのだろう。

ただ、「こういうスタイルのサッカーをします」とは、打ち出してはいないけれど、城福さんらしさは感じる。過去の失敗からしっかりと学んでいる。だから、広島で選手たちが城福さんの意図した通りのサッカーをしているんだろう。

僕は城福さんが2005年からU-17日本代表監督をしていた頃からの付き合いで、彼の指導方法に惚れ込んでいるけれど、やっぱりあれだけパッションのある人は、Jリーグのピッチサイドに立っていてもらわないといけない。

広島の良さは、まず攻守の切り替えの早さ。ボールを奪うと縦に素早く攻めるんだけど、そればかりじゃなくて、両サイドに働ける選手もいるから、ピッチをワイドに使って攻めることもできる。攻撃に爆発力はないけれど、全員、攻撃と守備の意識が高くてバランスがいい。だから、毎試合、安定した戦いができるんだよね。

それにボランチの青山敏弘と稲垣祥が効いている。青山はトップフォームを取り戻したね。視野が広くて、攻守の切り替え役のキーマンになっている。で、青山の運動量が少し足りないときには稲垣がカバーしている。稲垣は働き蜂的で潰し役がやれて本当にいい選手だよ。

ジュビロ磐田から戻った川辺駿というピースも大きかった。ポジション取りが速いし、攻守の切り替えがしっかりできているよね。

忘れちゃいけないのが、左MFの柏好文。彼の存在感は際立っているよ。柏は日本代表に呼ばれてもすぐに使えるレベルに成長したんじゃないかな。2014年に甲府から広島に移籍してきて、ミキッチ(現・湘南ベルマーレ)らのプレーを見ながら戦い方を覚えたんだろうね。あと、彼にとっては広島が4バックになったことも大きかった。

広島は08年から11年までのミハイロ・ペトロビッチ監督時代、12年から17年途中までの森保一監督時代はずっと3バックだった。それが去年途中からヤン・ヨンソン監督(現・清水エスパルス監督)になって4バックに変えた。

城福さんも4バックを継続している。千葉和彦が開幕戦以降はケガで出場できないなかで、野上結貴、水本裕貴が中央で、右に和田拓也、左に佐々木翔。佐々木はCBをやるときもあるからね。このDFラインとGKの林卓人ら、守備陣の安定が効いているね。

意外だったのがティーラシンだよ。ポストプレーが機能している。彼のキャリアを見ると、プレミアリーグやスイス、スペインでもプレーしているから、きっとヨーロッパでサッカーをしっかり勉強して、血肉にしてきたんだろうな。

広島がJ1リーグ前半戦に好調だったのは、兎にも角にも城福さんのパッションと、選手たちの今シーズンにかける思いが噛み合った結果。そこに尽きる。ただ、ここから2カ月間、W杯でJリーグが中断するのは広島にとっては痛いね。選手たちは連戦続きで疲労のピークにあるだろうけど、きっとリーグ戦を続けたい気持ちもあるんじゃないかな。

私も現役時代に経験があるけれど、好調なチームは中断期間中に、自分たちのサッカーをもっと良くしようと突き詰めすぎる傾向があるんだよ。選手たちも好調を維持したくて張り切っているから頑張ってしまう。

そうすると疲れが溜まって、リーグが再開する頃にはチームのコンディションが落ちているということになりかねない。そこが怖いね。

広島にもその危険性はあるけれど、城福さんは経験豊富な監督だから、そこは抜かりないと思う。前半戦で見せたサッカーをどんなふうに進化させるのか。W杯も楽しかったけれど、Jリーグの再開も待ち遠しいよ!