W杯でのクロアチアの活躍について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第56回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、ロシアW杯で準優勝に輝いたクロアチア代表について。大会MVPのモドリッチを擁するクロアチア代表の献身的なプレイスタイルは世界中のサッカーファンを魅了した。そんな彼らの活躍を宮澤ミシェル氏が振り返る。

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ロシア大会はおもしろい試合が多かったね。4年前のブラジル大会よりも盛り上がっていたし、試合のクオリティーも高かった。やっぱり前回は暑すぎたんだよ。今回もソチやロストフの会場は暑かったけど、それでもピッチレベルは大丈夫だったみたいだからね。

8年前の南アフリカ大会は、ブブゼラがうるさかったけどパッションがあった。でも、開催国がグループリーグで敗退したから、爆発的な盛り上がりにはならなかったけど、今回は開催国のロシアがベスト8にまで勝ち上がったから、それは物凄い騒ぎだった。

そうした大会にあって、世界中の人たちをもっとも魅了したのはクロアチアだったと言ってもいいんじゃないかな。大会MVPにはキャプテンのモドリッチが輝いたけど、大会を通じてクロアチアが見せたひたむきな姿勢が評価されたからこその受賞だったんだろうな。

決勝トーナメントは1回戦のデンマーク、準々決勝のロシア、準決勝のイングランドとすべて延長戦までもつれ込んで、しかも、3試合とも相手に先制点を奪われる展開になった。にもかかわらず、最後まで諦めずにゴールを狙い続けて決勝まで勝ち上がった。

クロアチアのサッカーはひと言で表せばエレガント。モドリッチとラキティッチを中心にして中盤をつくって、相手をおびき寄せてから逆サイドにパスを振る。そこで崩せなければ、もう一度中央に戻してつくり直すし、崩せればゴール前にクロスボールを送ってシュートを狙う。

モドリッチはレアル・マドリー、ラキティッチはバルセロナ、マンジュキッチはユヴェントス、ペリシッチはインテル。ビッグクラブの主力選手が揃っているんだけど、彼らは誰かひとりに頼るのではなく、チームとして全員がそれぞれ頑張っていた。そこが多くの人を魅了した理由だろうね。

1トップのマンジュキッチがいい例だな。決勝戦のフランス戦で相手がGKに戻したボールに対して、自陣から全力でプレッシングに行って、GKウーゴ・ロリスのミスを誘ってゴールを決めたけど、全力でのプレスはあのシーンだけのことじゃないからね。グループリーグの初戦から前線からプレスをかけてパスコースを限定して守備を助けていたんだから。

そういう部分が日本のスタイルと少しダブるし、共感できる部分でもあるよな。だからきっと、ロシア大会を通じてクロアチアのファンになったという人も多いと思うんだ。

クロアチアはグループリーグ初戦でナイジェリアに2対0で勝利するんだけど、最初から最後まですばらしいサッカーをしていたね。DFラインの置きどころ、中盤の構成力と前線との関係性。そのどれもが観ていて気持ちのいいものだった。

グループリーグ3試合目のアイスランド戦や、決勝トーナメント1回戦のデンマーク戦は、疲れのせいか、デンマークやアイスランドを苦手にしているからか、クロアチアのパフォーマンスは落ちたけど、準々決勝からもう一度、グッと上げたよね。

ロシア大会は優勝したフランスをはじめ、相手にボールを持たせ、カウンターから得点を奪うことを得意にする国が勝ち上がる傾向が強かった。代表としての活動時間が限られているから、これは今後さらに強まっていくのだろうけど、そうした時代にあって、クロアチアのようにボールをポゼッションして相手を押し込んで点を決めるっていうのは貴重だった。

モドリッチやラキティッチに注目が集まったけど、攻撃で違いを生み出していたのはペリシッチであり、マンジュキッチだった。縦に勝負できるスピードだったり、クロスボールを相手DFと競れる高さだったりが、日本には足りない部分かもしれないね。

ただ、日本と同じで、クロアチアも最大の武器はチーム一丸となれるチームワーク。イングランドに勝利した後、右SBのヴァルサリコがダリッチ監督を押し倒して、「やったぞー!」って、よろこびを分かち合っていた。ああいう何気ないシーンに、チームワークの良さが表れていたよ。

FWのカリニッチを早々に帰国させた本当の理由はわからないけれど、ダリッチ監督がその決断を下したのは、チームの団結力を優先させたからだと思うんだ。そうした監督のチームマネージメントがあったから、彼らの持っている技術力の高さや、献身性や、運動量が生きたんだろうな。

4年後はモドリッチが36歳で、ラキティッチが34歳。クロアチアがふたたび旋風を起こせるかはわからないけれど、少なくとも今大会はグループリーグで試合途中からしか出番がなかったマテオ・コバチッチがもっと成長を遂げないと厳しいだろうと思う。

4年後で28歳。これまでは若手として、所属するレアル・マドリーでも伏兵的に、ときどきサプライズを起こせば評価されてきたけれど、ここからは主力としてお山の大将にならないといけない。でも、そのためにはモドリッチやラキティッチを超えなければいけない。その重圧を跳ね返せるのか。それとも潰されて『いい選手』で終わってしまうのか。

W杯ロシア大会は終わったけれど、ひとつの国、ひとりの選手、彼らがどういう道のりをW杯まで辿るのかに注目しながら、もうすでに始まっている次のW杯カタール大会に向けての物語を楽しんでもらいたい!